夢ならばいいと思っていた。

 悪夢なら目覚めれば笑い話になる。

 つまらない夢でもご覧になったのですか、とミリアが笑ってくれるだろう。

 しかし、目が覚めると、そこは狭い牢屋だった。

 ごつごつとした石の壁から伝わる冷気が夢ではないことを物語っていた。

 かろうじて天井近くにある小さな窓から光が差し込んでいて、周囲の様子は分かる。

 頑丈な鉄の扉の向こうからはなんの物音も聞こえてこない。

 どうやらここで一夜を明かしたらしい。

 分厚い生地の衣装のおかげで体調を悪くしなくて済んだようだ。

 お母様が守ってくれたのかしらね。

 そうつぶやいてみたところで、閉じこめられている現実が変わるわけではなかった。

 おまけに、エレナの足首には頑丈な足枷と、錘につながれた鎖がくくりつけられていた。

 何という屈辱。

 やはりあれは夢ではなかったのですか。

 エレナはびくともしない錘を見つめながらため息をついた。

 気を失ってからどれくらいの時間がたったのだろうか。

 グルルゥグゥゥ。

 狭い空間にお腹の音が鳴り響く。

 そういえば、馬車に乗って王都に来てから何も食べていなかった。

 空腹を意識した途端、体中の力が抜けていく。

 ふだん何不自由ない生活をしているエレナにとって、このような状況は耐え難いものだった。

 なんとか脚を引きずって鉄の扉をたたいてみてもなんの反応もない。

「もし、どなたかいないのですか」

 人を呼んでも、誰も来る気配がない。

 いつもなら目覚めればミリアがやってきてすべてを整えてくれていた。

 でも、ここには何もないし、誰もいない。

 エレナの目から涙がこぼれ落ちる。

 いったいなぜわたくしがこのような扱いを受けなければならないのですか。

 わたくしがいったい何をしたというのです。

 エレナは拳を鉄の扉に叩きつけた。

「誰か! 誰かいないのですか! わたくしをここから出しなさい!」

 お嬢様育ちの柔らかな手の皮がむけて血がにじみ出す。

 誰か助けて。

 わたくしをここから出して。

 お父様のところへ帰らなければ。

 お医者様のお薬を差し上げなくては。

 誰でもいいからわたくしをここから出しなさい。

 だが、鉄の扉はびくともせず、ただ冷たく立ちはだかるだけだった。