どういうこと?

 ミリアが?

 公爵家の娘?

 卑劣な陰謀って何よ。

 もう何がなんだかわけが分からない。

 夢を見ているのだろうか。

 王宮に来てからの展開が急すぎてまったく飲み込めない。

 幼児の婚約者。

 不潔な傲慢王子。

 侍女の裏切り。

 わたくし、きっと悪夢を見ているのよね。

 しかし、エレナをおさえつける衛兵達にひねられた腕の痛みがそんな現実逃避を許さない。

 老大臣までが目を見開いてミリアを見つめている。

「おお、なんということか。そなたがあの懐かしきラベッラの娘だったとは。なるほどこの勇気と気品に満ちあふれた態度こそ、高貴な血を引く証であろう」

 は?

 気品?

 それはこのわたくしに対する言葉というものでございましょうに。

 ミリアがウェイン王子の前にひざまずく。

「今こそ父母の無念を晴らし、復讐を遂げるとき! 偉大なる王家の名において正義のなされんことを、お願い申し上げます」

「ちょっと、ミリア、復讐って……」

「黙れ、その方」

 王子がエレナに怒鳴りつけると、衛兵達が彼女の頭を床に押しつけた。

 痛いじゃないのよ!

 しかし、もはや抵抗する気力もなくなった彼女はその屈辱を受け入れるしかなかった。

 王子が冷たい声で言い放つ。

「よろしい。父に代わって王家の名の下に、この僕が裁きを下そう。シュクルテル家は断絶。領地を没収し、ラベッラ家に与え、公爵家の再興を許可する。そして、新たにクラクスの婚約者としてミリア殿を指名しようではないか。シュクルテル家の者はすべて王国から追放とする。これでよいな、ヒューム大臣」

 老大臣も満足そうにうなずく。

「さすがは殿下。見事な裁きでございます」

 ホールの人々からも賞賛の拍手がわき起こる。

 エレナは一人心の中で異を唱えていた。

 全然見事じゃないわよ。

 断絶?

 冗談じゃないわよ。

 わたくしはともかく、お父様はどうなるのです。

 追放なんて言われても、あの病気の体ではお城から出ることもできないというのに。

 エレナには到底受け入れられない判決であった。

 婚約者から罪人への転落。

 一番信頼していた侍女の裏切り。

 これじゃあまるでこっそり隠れて読んだ小説みたいな展開じゃないの。

 でも、わたくしの小説には、熱愛のページだけが破かれていたなんて。

 夢よ。

 そうよ、これは夢に違いないわ。

 王子が冷たく言い放つ。

「罪人を連れていけ」

「お待ち下さい。これは何かの……」

 抵抗しようとしたエレナを衛兵が殴りつけた。

 本当に夢を見ているかのように、エレナの意識が遠のいていった。

 これは夢よ。

 夢なのよ……。