足下にいたクラクス王子はまたカミラの方へ歩み寄っていく。
「ダッコダッコ」
よほど彼女の胸がお気に召したらしい。
ま、わたくしのホッペと柔らかさは似てるんでしょうけど。
それより、ミリアはいったいどういうつもりなのかしら。
王宮に到着してから侍女としての役割をまったく果たしていない。
何をたくらんでいるというの?
探して問いただそうとしたとき、ウェイン王子がエレナの手を引き寄せて耳元にささやきかけてきた。
「一曲お相手をお願いできるかな」
「え、ええ、もちろんですわ。喜んで」
第一王子の誘いを断る理由などない。
こっちに乗り換えるチャンスだ。
二人は手を取り合って舞踏の輪に加わった。
エレナは舞踏は得意ではないが、貴族の子女のたしなみ程度にはこなせる。
ウェイン王子はエレナがステップをミスするたびに腰に回した手でしっかりとフォローしてくれる。
彼女に向けられる余裕に満ちた微笑みは貴公子にふさわしいものだった。
国の将来を担う第一王子の華麗なリードで優雅に舞う二人に人々の視線が集まり、惜しみない拍手が送られる。
さきほどエレナを嘲笑していたご婦人方も扇で口元を隠しながら嫉妬の視線を送るのが精一杯のようだった。
「まるで夢のようだな」と王子がささやく。「君のような素敵な女性に出会えるなんてね」
エレナは舞踏に気を取られてうまく返事ができなかった。
しかし、多少のぎこちなさも王子の気を引くスパイスにすぎないようだった。
王子がエレナの瞳を見つめる。
「君も運命を感じるだろ?」
「ええ」
王子の情熱的な瞳に見つめられてエレナは息が止まりそうだった。
「今宵は弟の婚約パーティーということで僕は脇役に徹するつもりだったんだ」
え?
弟の婚約……。
急に現実に引き戻される。
やっぱりさっきのクラクスとかいう幼児が私の婚約者だったの?
棒立ちになりかけたエレナを王子がグイと引き寄せつつ、華麗にターンを決める。
再び密着した二人に、場内からふたたび拍手がわき起こる。
だが、エレナの心はもはや舞踏どころではなかった。
ほとんど歩くようなステップでついていくのが精一杯だった。
「あの、わたくしの婚約者というのは……」
「クラクスだよ。聞いてないのかい?」
「ええ、実は、わたくしは何も」
王子がふっと口元に笑みを浮かべる。
「まあ、政略結婚なんて、そんなものだろ。家同士の結びつきを強くする以外に婚姻の目的なんかないからね」
政略結婚という言葉に、エレナは自分の中の何かが冷え込んだような気がした。
もちろん、そういった話は貴族社会では当たり前のことだ。
王族との婚姻が臣下の貴族にとって名誉であることは理解できる。
王族にとっては領国支配の強化、臣下にとっては主君への忠誠を示す手段。
双方にもたらされるメリットは計り知れない。
ただ、エレナの父と母のように仲睦まじく家庭を築く夫婦がいるのもまた事実だ。
遠い記憶の中とはいえ、幸せそうだった母の姿を思い浮かべると、納得のいかない気持ちがどうしてもわいてくる。
まして、相手はあんな幼児だ。
わたくしに、燃えるような恋は許されないというの?
エレナはこっそり小説で読んだことのある恋物語を思い浮かべながら、こみ上げてくる涙をこらえていた。
「おっと」
王子の足を踏んでつまずきそうになってしまった。
「す、すみません」
考え事をしていて、完全に舞踏を忘れていた。
「ダッコダッコ」
よほど彼女の胸がお気に召したらしい。
ま、わたくしのホッペと柔らかさは似てるんでしょうけど。
それより、ミリアはいったいどういうつもりなのかしら。
王宮に到着してから侍女としての役割をまったく果たしていない。
何をたくらんでいるというの?
探して問いただそうとしたとき、ウェイン王子がエレナの手を引き寄せて耳元にささやきかけてきた。
「一曲お相手をお願いできるかな」
「え、ええ、もちろんですわ。喜んで」
第一王子の誘いを断る理由などない。
こっちに乗り換えるチャンスだ。
二人は手を取り合って舞踏の輪に加わった。
エレナは舞踏は得意ではないが、貴族の子女のたしなみ程度にはこなせる。
ウェイン王子はエレナがステップをミスするたびに腰に回した手でしっかりとフォローしてくれる。
彼女に向けられる余裕に満ちた微笑みは貴公子にふさわしいものだった。
国の将来を担う第一王子の華麗なリードで優雅に舞う二人に人々の視線が集まり、惜しみない拍手が送られる。
さきほどエレナを嘲笑していたご婦人方も扇で口元を隠しながら嫉妬の視線を送るのが精一杯のようだった。
「まるで夢のようだな」と王子がささやく。「君のような素敵な女性に出会えるなんてね」
エレナは舞踏に気を取られてうまく返事ができなかった。
しかし、多少のぎこちなさも王子の気を引くスパイスにすぎないようだった。
王子がエレナの瞳を見つめる。
「君も運命を感じるだろ?」
「ええ」
王子の情熱的な瞳に見つめられてエレナは息が止まりそうだった。
「今宵は弟の婚約パーティーということで僕は脇役に徹するつもりだったんだ」
え?
弟の婚約……。
急に現実に引き戻される。
やっぱりさっきのクラクスとかいう幼児が私の婚約者だったの?
棒立ちになりかけたエレナを王子がグイと引き寄せつつ、華麗にターンを決める。
再び密着した二人に、場内からふたたび拍手がわき起こる。
だが、エレナの心はもはや舞踏どころではなかった。
ほとんど歩くようなステップでついていくのが精一杯だった。
「あの、わたくしの婚約者というのは……」
「クラクスだよ。聞いてないのかい?」
「ええ、実は、わたくしは何も」
王子がふっと口元に笑みを浮かべる。
「まあ、政略結婚なんて、そんなものだろ。家同士の結びつきを強くする以外に婚姻の目的なんかないからね」
政略結婚という言葉に、エレナは自分の中の何かが冷え込んだような気がした。
もちろん、そういった話は貴族社会では当たり前のことだ。
王族との婚姻が臣下の貴族にとって名誉であることは理解できる。
王族にとっては領国支配の強化、臣下にとっては主君への忠誠を示す手段。
双方にもたらされるメリットは計り知れない。
ただ、エレナの父と母のように仲睦まじく家庭を築く夫婦がいるのもまた事実だ。
遠い記憶の中とはいえ、幸せそうだった母の姿を思い浮かべると、納得のいかない気持ちがどうしてもわいてくる。
まして、相手はあんな幼児だ。
わたくしに、燃えるような恋は許されないというの?
エレナはこっそり小説で読んだことのある恋物語を思い浮かべながら、こみ上げてくる涙をこらえていた。
「おっと」
王子の足を踏んでつまずきそうになってしまった。
「す、すみません」
考え事をしていて、完全に舞踏を忘れていた。