「本当にまだ建設途中なんだね」
「だな」
二人して感動した。いや、だって現在進行形で工事中なんだもん。新しいところと出来上がっているところでは壁の色が違っていたりして。歴史的建造物なのに、未だに一部に工事用の足場が組まれているのがアンバランス。
サグラダ・ファミリアはあらかじめインタネット経由で日付と時間指定で見学予約を入れてある。今日はそれ以外の見どころを回る予定。
時間もないため、わたしたちは地下鉄に乗って移動することにした。
なにしろバルセロナは見どころが多い街なのだ。
「まずはごはんを食べて、それから観光! できるだけガウディ作品観たいな」
「時間との勝負だな」
お互いに目を見て、小さく頷く。
だいぶ息があって来たな、なんて考えてしまった。
* * *
カサ・バトリョやカサ・ミラを見学して。「こういうおしゃれなところに住んでみたいなあ」「俺は普通のところでいいかな」「どうして」「え、家賃高そうだし。住んでる建物が観光地とか、落ち着かない」「なるほど」なんてしょうもない感想を言い合って。
海があるせいか、バルセロナの街はなんとなく開放的。
観光地巡りもいいけれど、日本にも進出したショコラトリーでケーキを食べたり。
駿人さんがお土産の本気買いをしてみたり。
自由時間がどうのとか、意地を張っていたわたしはどこにいってしまったんだろう。
駿人さんと歩くバルセロナの街。
街路樹が作り出す日陰から出ると、人の形をした二つの影。
並ぶそれがくすぐったくて。けれども、その心にあえて目を向けないようにした。
翌日、わたしたちは念願のサグラダ・ファミリアへとやって来た。
あらかじめウェブ予約をしていたため、スムーズに入場することが出来た。時間の節約、大事。
これまで観てきた重厚な教会内部とは違って、サグラダ・ファミリアの内部はどちらかというとシンプル。けれども色とりどりのステンドグラスがとても印象的。高い天井と、射しこむ光。
色とりどりのガラスを通る光が美しい。
しっかりとこの目に焼き付けておかなくちゃ。
「沙綾のおかげだな」
「え?」
スマホを掲げて撮影をしていた駿人さんの声を拾う。
「俺一人だと、スペインまで来ようとも思わなかった」
しみじみとした声に軽さは無くて。
「駿人さん、友だち沢山いるでしょ。別に私と一緒じゃなくても」
「この年になると、そう気軽に旅行なんか来ないって。俺の周り、結婚してる奴らも多いし、出張でこっち来ても、一緒にスペインまで行くってわけにもいかないだろ」
つい可愛くないことを言うわたしに苦笑を見せつつ、彼はそんなことを言う。
「俺、今回の旅が沙綾と一緒でよかったよ。人生観変わったくらい、楽しかった」
「……ばか」
小さな声は、口の中だけに留めた。
まるでこの旅行の終焉のような言葉に、わたしの胸が勝手にチクチクと痛みだす。
バルセロナで、駿人さんともお別れなのだ。
彼と一緒の三週間なんて地獄だ、とか思っていたのに。
案外あっという間、ううん。本当に早かった。
「そろそろ時間じゃない?」
わたしはからりと口調を変えた。
これから受難のファサードに上るのだ。
それにしても、歴史的建造物にエレベーターはいささかそぐわない。
あっという間に上階へとたどり着いて、眼前に広がるのはバルセロナ市街。
規則正しいまっすぐ伸びた街の先に見えるのはバレアス海。
「うわぁぁ」
風がびゅうびゅうと吹き付けて、わたしの髪の毛をもてあそぶ。
「けっこう風強いな」
駿人さんがわたしの隣に並ぶ。
「でも、きれーな眺め」
「確かに」
「なんかさ、信じられないよね」
「なにが?」
「ん~、今自分がスペインにいることが。同じ地球なのに、見える景色も文化も、全然違ってて。でも、同じ世界なんだよね。そういうの、不思議だなって思う」
今ここにいると、日本で働いていた普通の日常の方が遠い世界のように感じてしまう。
人が旅行に行ってリフレッシュする意味がなんとなく分かった気がする。
ちょっと、恥ずかしいことを言っちゃったな、と自覚あって、一人で顔を熱くしていると、近くの観光客から写真撮影を頼まれた。
スマホで何枚か撮ってあげると、あなたたちも撮るよ、とジェスチャーされた。
わたしは思わず駿人さんを見てしまう。
そういえば、この旅行中二人で一緒に撮った写真て一枚もない。
「せっかくだから撮ってもらおう」
逡巡するわたしを尻目に駿人さんがスマホを差し出した。四十代、もしくは五十代に手が届いているかもしれないヨーロピアンの女性が手渡されたスマホを構える。
うわうわ。肩と肩が触れ合って、どうにも気になってしまう。
でもまあ、旅の思い出に一枚くらいありだよね。
「だな」
二人して感動した。いや、だって現在進行形で工事中なんだもん。新しいところと出来上がっているところでは壁の色が違っていたりして。歴史的建造物なのに、未だに一部に工事用の足場が組まれているのがアンバランス。
サグラダ・ファミリアはあらかじめインタネット経由で日付と時間指定で見学予約を入れてある。今日はそれ以外の見どころを回る予定。
時間もないため、わたしたちは地下鉄に乗って移動することにした。
なにしろバルセロナは見どころが多い街なのだ。
「まずはごはんを食べて、それから観光! できるだけガウディ作品観たいな」
「時間との勝負だな」
お互いに目を見て、小さく頷く。
だいぶ息があって来たな、なんて考えてしまった。
* * *
カサ・バトリョやカサ・ミラを見学して。「こういうおしゃれなところに住んでみたいなあ」「俺は普通のところでいいかな」「どうして」「え、家賃高そうだし。住んでる建物が観光地とか、落ち着かない」「なるほど」なんてしょうもない感想を言い合って。
海があるせいか、バルセロナの街はなんとなく開放的。
観光地巡りもいいけれど、日本にも進出したショコラトリーでケーキを食べたり。
駿人さんがお土産の本気買いをしてみたり。
自由時間がどうのとか、意地を張っていたわたしはどこにいってしまったんだろう。
駿人さんと歩くバルセロナの街。
街路樹が作り出す日陰から出ると、人の形をした二つの影。
並ぶそれがくすぐったくて。けれども、その心にあえて目を向けないようにした。
翌日、わたしたちは念願のサグラダ・ファミリアへとやって来た。
あらかじめウェブ予約をしていたため、スムーズに入場することが出来た。時間の節約、大事。
これまで観てきた重厚な教会内部とは違って、サグラダ・ファミリアの内部はどちらかというとシンプル。けれども色とりどりのステンドグラスがとても印象的。高い天井と、射しこむ光。
色とりどりのガラスを通る光が美しい。
しっかりとこの目に焼き付けておかなくちゃ。
「沙綾のおかげだな」
「え?」
スマホを掲げて撮影をしていた駿人さんの声を拾う。
「俺一人だと、スペインまで来ようとも思わなかった」
しみじみとした声に軽さは無くて。
「駿人さん、友だち沢山いるでしょ。別に私と一緒じゃなくても」
「この年になると、そう気軽に旅行なんか来ないって。俺の周り、結婚してる奴らも多いし、出張でこっち来ても、一緒にスペインまで行くってわけにもいかないだろ」
つい可愛くないことを言うわたしに苦笑を見せつつ、彼はそんなことを言う。
「俺、今回の旅が沙綾と一緒でよかったよ。人生観変わったくらい、楽しかった」
「……ばか」
小さな声は、口の中だけに留めた。
まるでこの旅行の終焉のような言葉に、わたしの胸が勝手にチクチクと痛みだす。
バルセロナで、駿人さんともお別れなのだ。
彼と一緒の三週間なんて地獄だ、とか思っていたのに。
案外あっという間、ううん。本当に早かった。
「そろそろ時間じゃない?」
わたしはからりと口調を変えた。
これから受難のファサードに上るのだ。
それにしても、歴史的建造物にエレベーターはいささかそぐわない。
あっという間に上階へとたどり着いて、眼前に広がるのはバルセロナ市街。
規則正しいまっすぐ伸びた街の先に見えるのはバレアス海。
「うわぁぁ」
風がびゅうびゅうと吹き付けて、わたしの髪の毛をもてあそぶ。
「けっこう風強いな」
駿人さんがわたしの隣に並ぶ。
「でも、きれーな眺め」
「確かに」
「なんかさ、信じられないよね」
「なにが?」
「ん~、今自分がスペインにいることが。同じ地球なのに、見える景色も文化も、全然違ってて。でも、同じ世界なんだよね。そういうの、不思議だなって思う」
今ここにいると、日本で働いていた普通の日常の方が遠い世界のように感じてしまう。
人が旅行に行ってリフレッシュする意味がなんとなく分かった気がする。
ちょっと、恥ずかしいことを言っちゃったな、と自覚あって、一人で顔を熱くしていると、近くの観光客から写真撮影を頼まれた。
スマホで何枚か撮ってあげると、あなたたちも撮るよ、とジェスチャーされた。
わたしは思わず駿人さんを見てしまう。
そういえば、この旅行中二人で一緒に撮った写真て一枚もない。
「せっかくだから撮ってもらおう」
逡巡するわたしを尻目に駿人さんがスマホを差し出した。四十代、もしくは五十代に手が届いているかもしれないヨーロピアンの女性が手渡されたスマホを構える。
うわうわ。肩と肩が触れ合って、どうにも気になってしまう。
でもまあ、旅の思い出に一枚くらいありだよね。