放課後はお店の売り子をして、終わったら夕飯を作る。正直大変だったけれど、大好きな祖父と長く一緒にいられて、祖父に楽をさせてあげられることがうれしかった。

 しんどくなったときに思い出すのはいつも、授業参観でお母さんたちに交じって教室の後ろに並ぶ祖父の照れた顔や、運動会の親子二人三脚で一緒に走ってくれた、汗だくの祖父の姿だ。

 お店を継いで和菓子職人になるのを強制されたことはないけれど、いつの間にか自然と祖父のあとを継ぎたいと思うようになっていた。

 いつだったかは覚えていない。もしかしたら、この家に来たときからそう思っていたのかもしれない。そう感じるくらい祖父の作る和菓子は素朴で優しくて、心をホッと温めてくれるものだったから。

 さらに和菓子を作る祖父の後ろ姿はかっこよくて、それを毎日見ていた私が和菓子職人を目指すのは必然だったように思える。

「そういえば茜は、好きな人とかおるんかあ?」

 ふたりで黙々と朝食をとっていると、祖父が突然柄じゃない話題を切り出した。いつも食事のときは静かに食べるのに、珍しい。

「どうしたの、急に。今までそんなこと、聞いてきたことなかったのに」
「いや……。例えばうちの弟子たちの中で気になるやつはおらへんのかな、と思うてな」
「うちの弟子って言ったって……」

 和菓子職人の見習いとして働いているお弟子さんたちが、うちの店には三人いる。

 一番弟子の小倉さんは、実家が滋賀県で和菓子店を経営している。祖父同士が知り合いなので、うちに修行に来ているのだ。

 そして、専門学校を卒業したあとうちで働くことになった安西さんと佐藤さん。全員、二十代後半くらいだったと思う。