「……その言葉、全部知ったらきっと言えなくなるぞ」
震えている俺を見つめて、零次は弱しい声で口にした。俺はその言葉を正論にしたくなくて、泣きながら大声で否定した。
「ならねぇよ! 俺はずっと零次のそばにいる! ……お前がいなきゃ、生きてけねぇんだよ!!」
俺がそう言うと、零次は俺の頭を撫でてながら、目尻を下げて、悲しそうに笑った。
「……俺がいなくても、生きてけるよ」
「無理だよそんなの!!」
「……本当に、全部知りたいのか?」
「うん、知りたいよ。……お前のことが、全部知りたい」
俺がそう言うと、零次は作り笑いをして、俺達が出会うまでにあった出来事を話してくれた。
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俺は闇金の社長の子供だけど、アイツに望まれて産まれたわけじゃない。
俺は母親にだけ産まれるのを望まれた。
父親からは産まれたことを疎まれた。父親は顔を合わせるたびに俺に『なんでお前は生きてるんだ』とか、『さっさと死ねよ!』とか言ってた。
母親にも顔を合わせるたびに、『何で産んだんだ』とか『零次がいるせいで、俺の金がへってるんだよ!』とか言ってた。
俺が手違いでできた子供だから。
十六年前の春、闇金会社の社長になりたてだった俺の父さんには、愛人がいた。
俺はその愛人が父さんとしたときに避妊が上手くいかなくて産まれた。
母さんが俺を産んだのは、生まれた命に罪がないのに殺すのは可哀想だと思ったからだった。
母さんは同情で俺を産んで、女手一つで俺を育ててくれた。養育費と生活費だけは父さんに払ってもらって。
父さんは俺と一緒に暮らそうとはしてくれなかった。不倫をしたくせに、本物の妻と暮らすのを選んだ。
でも俺は、それでいいと思ってた。
母さんと過ごす日々を、幸せだと思っていたから。……母さんはすげえ優しい人だった。いつも笑って俺を甘やかしてくれて、好きなモノを買ってくれて。俺が落ち込んでると、元気になるまで頭を撫でてくれた。
俺はそんな母さんとの日々が、ずっと続くと思っていた。
でも、その日常は突然壊された。
小学校の卒業式の日、母さんはなぜか卒業式を見に来てくれなかった。
前日の日には必ず見に行くと言って、笑ってスーツを探していたのに。
俺が重い足取りで家に帰ると、母さんは家のリビングで、ナイフを胸に刺されて倒れていた。洒落たスーツに身をつつんで。
俺はそれを見て猛烈な吐き気に襲われて、思わずトイレに駆けこんで思いっきりものを吐いた。
酷い絶望が頭を支配して吐いても吐いても吐き気は収まらなかった。
胃液しかでてこないくらい吐いてから覚束ない足取りでリビングに戻ると、そこには父さんがいた。
――俺はその時に見た父さんの姿を今でも忘れられない。
父さんは床に零れていた母さんの血を平然と拭いていた。母さんの死にうろたえもしなければ、泣きもしないで。