翌朝。
 俺は車のエンジンの音を聞いて、目を覚ました。
 誰か家に来たのか?
 俺は布団から出て、窓のそばにいった。
 家の前に、黒い車が止まっている。
 その車から、真っ黒いスーツを着ていてサングラスをかけたいかにも柄の悪そうな男が出てきた。恐らく父さんが金を借りている闇金融の男だ。

「井島あ!!!」
 男はインターホンを押して、叫んだ。
 慌てた様子で家から出てきた父さんは、男に金を返せと怒鳴られ、怯えながら何度も何度も頭を下げた。男は肩を落とし、車に乗って帰っていった。

「諦め早」
 思わず声が漏れる。
 多分あの男は、父さんに全然期待してないんだな。
 今の闇金の男みたいに、父さんがあっさり俺の虐待をやめてくれたら、どんなにいいんだろう。
「……そんなことありえないよな」
 父さんはきっと、まだまだ俺を開放してくれない。
 涙が視界を歪ませる。俺は零れてくる涙を、右腕で拭った。
「いてっ」
 涙が昨日皮をむかれて、傷だらけになったとこを刺激する。
 痛い。
 利き腕だからって右腕を出すんじゃなかったな。
「海里、いつまで寝てる。早く起きないと、飯を抜くぞ」
 父さんが俺の部屋のドアをノックして、低い声で言う。
「……しんどいな、俺の人生」

 ――誰か、助けて。

「ハッ」
 アホか。助けなんてこねぇよ。こんなことを想うだけで助けがくるなら苦労しない。どうせ誰も、俺を助けてくれない。
 俺は髪をいじって虐待のせいで剥げたとこを隠してから、ドアをゆっくりと開けた。

 その日のお昼休み。
 今日も当たり前のように小遣いをもらえなくて昼飯を買えない環境にいた俺は、ものすごいお腹が空いていた。
 制服のズボンのポケットに入れていたスマフォが、突然音を立てる。
 スマフォを起動すると、父さんからラインが来ていた。
《腹が減ってるなら、学校の近くのコンビニに来い》
 ……これ、絶対ご飯もらう前に虐待されるだろ。
《五分以内に来ないと、今日の放課後もガレージに閉じ込めるぞ》
 メッセージが既読になったのに気づいた父さんが、催促をしてくる。
「はぁ……」
 俺はため息をつくと、昨日閉じ込められたせいで本調子じゃない体を引きずって、スマフォと二枚のハンカチだけを持って、学校を出た。
 鞄は荷物になるだけだと思ったから手に取らなかった。
 コンビニには、三分もかからないでついた。
 でも俺は、出入り口の近くのイートインスペースにいる父さんがカップラーメンにお湯を入れているのを見て慌てて入るのをやめて、コンビニの壁に隠れた。