「え?」
 スマフォの画面に映っているニュースの記事には、俺の父さんが児童虐待の容疑で逮捕されたことが書かれていた。
 零次が俺を監視していた時の動画を警察に提出したから、逮捕されたのか?
 ……俺は、虐待から解放されたのか?
 俺の世界は、地獄じゃなくなったのか?
「海里、これ、零次君からよ」
 母さんが丸椅子の上に置いてある紫色の花束を手に取って、俺に差し出す。
 花束についているメッセージカードには、『早く元気になれよ。楽しかった。今までありがとう』と書かれていた。

 メッセージカードには、送り主も宛名も書かれていなかった。それでも花束が紫なだけで、零次が俺に宛てたものだと、嫌というほどわかってしまった。
「その花束、今朝、零次君が病院の受付のそばのごみ箱に捨てるのを看護師が見て、私に届けてくれたのよ。捨てようとしてたから、海里に渡していいかわからなかったみたい。看護師は白髪の男の子が捨ててたって言っていたから、零次君で間違いないわ」

 涙が頬を伝う。

 ――馬鹿野郎。

 楽しかったなら、なんでいなくなるんだよ。
 ――なんで。何でそんな風にして人のことを救っていなくなるんだよ。
 残された側はどうすればいいんだ。

 どうして!!
 地獄からを解放されるのと引き換えに、お前を失わなきゃなんないんだよ!?

 ゆっくりと零れていた涙が、滝のようにどばどばと溢れ出した。
 地獄から解放された嬉しさと、零次を失くした悲しさが一気にこみあげてきた。

 地獄から解放されたかった。

 生きてるのは地獄でしかないって、本気でそう思ってきた。そう思ってたから零次に止められても自殺をしようとした。
 死を望んだ。
 いや、死を望んでいるフリをしていた。本当は痛いのも苦しいのもものすごい嫌なくせに、自分を大切にしないでいた。
 零次はそんな俺の想いをいとも簡単に見破って、自分を大切にしろって、反抗しろって言ってくれた。