「……たぶん、振りあげられても平気だよ。確証はないけど、少なくとも、もう怖いとは思わないと思う。……俺、零次のこと信じるって決めたから」
「え? 今のもう一回言って!!」
零次がとてもはしゃいだ様子でいう。
「嫌だ」
俺は顔をしかめた。
聞こえてないフリがあまりに下手すぎる。
「ちぇっ」
零次は俺を見て、不服そうに口を尖らせた。
「ちょっと、いつまで二人で話してんのよ。タピオカ、早く買い行くわよ」
零次の真後ろにいる美和が、呆れながら言う。
「ごめんな、美和ちゃん! 行くぞ、海里!」
零次は俺の手を掴んで、フードコートの右端にあるタピオカ屋へ向かった。奈緒と美和は零次を見て笑いながら、俺の後を追ってきた。
タピオカは人気の商品らしく、列には十人以上の人が並んでいた。
これは結構時間がかかりそうだ。
零次はタピオカのメニューのチラシを持って、列の最後尾に立っている店員に声をかけた。
「何分くらい待ちますか?」
「私をどんだけ短気だと思ってんのよ。待つわよ二十分くらい」
「え、だってさっき、俺にはめっちゃ怒ってたじゃん」
「それとこれは話が違うでしょ! 私はあんただから怒ったの!」
美和が不機嫌そうに叫ぶ。
「海里いいいい」
零次は泣きそうな顔をして、俺の左腕を摑んでくる。俺はそんな零次を見て苦笑いをした。
「店員さんがメニューのチラシくれたよー」
そういって、奈緒が俺達にタピオカのメニューがかかれたチラシをみせてくる。奈緒が会話に参加してないとは思ったが、どうやらメニューをもらってくれてたようだ。気が利いている。
俺達は店員にお辞儀をしてから、タピオカの列に並んだ。店員は俺達にお礼を言うと、すぐにタピオカの宣伝をしに行った。
メニューには、飲み物の中に黒くて丸いタピオカが何十個も入っている様子が書かれていた。
零次が言った通りだ。
「……なんか不気味だな」
黒い粒粒が山のように入っている様子は、はっきりいってとても可愛くなかった。
「不気味ってそんなこと……あるかもしれない」
零次は真顔で俺の意見に同意した。
大方、ふざけているんだと思う。
「ないわよ! 馬鹿なの?」
美和が零次の背中を叩こうとする。俺は零次の足の怪我にひびくんじゃないかと思って、咄嗟に美和の手を掴んでしまった。
「「海里?」」
「海里くん、どうしたの?」
三人は俺のことを不思議そうな顔をして見つめた。
「いや、その……叩くのは良くないと思う」
俺はしどろもどろになりながら、手を離した。
「そっ、そうね! ごめんね、零次!」
美和は慌てて、手を下ろした。
「いやいや、全然大丈夫!」
零次は笑って頷いた。
俺達はその後、注文したタピオカを受け取ると、メリーゴーランドの列に向かった。