「……タピオカって何?」
「あーそっか。海里は知らないよな。なんて説明したらいいんだろうな。んー、飲み物の中に黒いもちもちした『タピオカ』っていうのが入ってんだよ。で、それがすごいクセになんの。ただ、普通に飲むとそれが大量に中に残る!」
 零次はわかるような分からないような説明をした。
「……ごめん、わかんない」
 特に最後がわからない。普通に飲むと大量に中に残るってなんだ?
「んーとりあえず飲んでみればいいんじゃない? ほうじ茶のタピオカとかにすれば、海里くんも飲めるでしょ!」
「ほうじ茶のがあんの?」
 随分健康そうなのがあるんだな。
「うん! 身体に良さそうだし、それなら飲めるんじゃない?」
「……うん、飲めるかも」
「じゃあ飲む? 零次のおごりで」
 俺の言葉にうなずきながら、美和は意地悪そうにいってのける。

「俺だけ? 海里は?」
「零次の電話が長くて遅れたんだから零次だけにきまってるでしょ」
「いやいや、さっき海里もゆっくり歩いてたって言ったじゃん!」
「……ゆっくり歩いてたのが本当だとしても、電話が長くなければ私達は三十分も待つことにならなかったわよね?」
「美和ちゃんの鬼!」
 涙目で零次はそんなことをいった。
「自業自得でしょ」
 美和の言葉に零次はガーンと効果音がつくくらいの勢いで項垂れる。動作が大袈裟だ。
「零次、俺自分の分と奈緒の分払うから、残り払って」
 零次にはいつも払ってもらってたし、たまには自分も払おうと思った。
「おっマジ? やっぱ持つべきものは親友だな!」
 零次は火傷してない方の俺の肩に腕をのっけた。
「……親友? 俺と零次が?」
「おう。嫌か?」
「……別に」
 むしろ、どっちかと言うと嬉しいかもしれない。

 零次は笑いながら帽子の中に手を入れて、俺の頭を包帯ごしに撫でた。俺はそれを拒否しなかった。
「え? 嫌じゃねぇの?」
「……零次が腕振りあげなかったから、そんな怖いと思わなかったのかも」
 零次はきっと肩に乗っけた方の腕だったから、上げる必要がなかっただけだ。
 振り上げなかったのは、たまたまだ。理由なんてない。
 それでも、その瞬間は確かに、俺が頭を撫でられるのを拒否しなかった瞬間だった。
「いいじゃん! そんじゃあこれからは手を振り上げさえしなければ、お前のこと幾らでも撫でられるんだな!」
 零次はとても嬉しそうに口元を綻ばせた。