俺はその後、一緒に暮らしているから放課後や登下校はもちろんのことだが、昼休みや十分休みなど、あらゆる時間を零次と過ごすようになった。その共有してる時間の中で零次が俺を連れていってくれたのは、ロブスターが上手い店、チーズハットグとかいうアメリカンドッグみたいな見た目のものの中に、何故かチーズが入っている食べ物の店など、俺からすればかなり新鮮な場所ばかりだった。そういうとこに連れてってもらえること自体が殆どなかった俺にとって、零次と過ごす日々はとても楽しい日々で。心の底から生きててよかったと思えるような日々だった。
そんな日々が訪れてからおよそ一か月半が過ぎたある日、俺は零次と一緒に遊園地に来ていた。
今日は零次とだけでなく、咲坂と茅野も一緒に、四人で遊ぶことになっている。四人で遊ぶのはプリを撮ったあの日以来だから、とても楽しみだ。
二人とも、早く来ないかな。
そんなことを思いながら、俺は咲坂達がくるのを遊園地の入口前で今か今かと待った。
「あ、海里、これ」
零次が突然、被っていた紫色のキャップを俺の頭の上に被せた。
「何?」
「何って、傷かくしだよ。お前、奈緒ちゃん達に虐待のこと隠したいんだろ。それなら今日は一日中かぶっとけよ。お前の母親が送ってくれたやつの中に帽子なかったし、これ、お前にやるよ」
「あ、ありがとう」
「おう。渡すのが遅くなって悪いな。本当は同居を始めた日に渡した方が良かったよな」
「……いいよ。紫だから、渡しづらかったんだろ?」
「あ、バレてる? 俺のことよくわかってんじゃん」
零次はそう言って、嬉しそうに口元を緩ませて、俺の火傷していない肩に腕をのっけた。
「一か月半も一緒に暮らしてたら大抵のことはわかる。……お前、わかりやすいし」
「お前は何でそこで、そういう意地の悪い言い方すんだよ! せめて『仲良くなったからそれくらい簡単にわかる』とか言ってみろよ!」
不服そうに口を尖らせて、零次は俺の両頬をつねった。
「れっ、零次やめろ」
――ん?
数メートル先にいる咲坂と茅野が、足音を立てないようにして零次に近づいていた。
あいつら、何してんだ?
「零次、やめなさい」
茅野が突然、背後から零次の肩を叩いた。
「いたっ!? 美和ちゃん? 今結構力入れただろ? 地味に痛いんだけど!」
零次が俺の頬から手を離して、痛そうに肩を触る。
「手加減しただけ感謝しなさい」
「いやなんで? 俺、少しふざけてただけじゃん!」
「アンタが言う少しは、全然少しじゃないのよ」
「「アハハハ!!」」
俺と咲坂は茅野と零次の言い合いを見て、声を上げて笑った。
「海里くん、今日はよろしくね?」
頬をほんのりピンク色に染めて、咲坂は笑う。
「うん。……よっ、よろしく、咲坂」
小さな声で、俺は頷いた。
「奈緒でいいよ? せっかく遊園地で遊ぶんだし、名前で呼び合おうよ。その方が、きっと楽しいよ」
「わっ、わかった」
俺は髪をいじりながら頷いた。
「海里、私も美和でいいわよ」
茅野が俺と奈緒のそばに来ていう。
「うん」
俺は笑って頷いた。