「一発くらい殴ってよかったんじゃないか」
 フードコートから母さんの姿が完全に見えなくなると、零次は机に肘をつけて、不満そうに口を尖らせた。
「殴んなくていいよ。……恨んでないって言ったら嘘になるけど、別に殴りたいと思うまで恨んでないから」
「本当にそう思ってんのか? 俺は今すぐにでも殴りに行きたいくらいなんだけど。言っとくけど俺はあの人が海里のことを想ってるのは評価してるけど、親としてはぜんぜん良いと思ってないからな」
「……何発くらい殴りたい?」
 興味本位でそういってみると、零次は真剣な顔をして腕を組んだ。
「十発……いや、五十発くらい殴っていいんじゃないか? いや、それでもまだ足りねぇな。お前がされた仕打ちを味合わせるには、殴るだけじゃ余りに物足りなすぎる」
「アハハハ!」
 俺はなんだかおかしくなって、声を上げて笑った。
「な、なんだよ」
 俺の笑い声にびっくりして、零次は狼狽える。
「ありがとう、零次。俺のためにそんな風に言ってくれて、本当にありがとう」
 零次の言葉を聞いて嬉しくなった俺は、感謝を述べた。
「……別に、礼言われるほどのことじゃねえよ」
 頬を真っ赤にして、零次は言う。なんだか赤すぎてリンゴみたいだ。
「顔、真っ赤だぞ?」
「うるせー! いつも赤くしてる奴が言うんじゃねえよ!」
 口を尖らせて、不機嫌そうに零次は言い返す。まるで、反抗期絶頂の子供みたいだ。

「本当にありがとう、零次。俺、零次が友達で良かったよ」
 拗ねている零次の頭を撫でて、俺は笑った。
 地獄みたいな世界から俺を救ったのは、学校中でチャラいって噂されてて、死をとても怖がっている謎めいた男だった。あまりに漫画じみたその展開を、とてもいいものだと感じたから。
 こいつのそばに、一生いたいと思ったから。 
「ん」
 零次は目をつぶって、満足気に笑った。

 たこ焼きを食べ終わると、俺達は食器とかを買ってからホームセンターを出た。
「じゃ、服屋に行くかー」
 零次がズボンのポケットからスマフォを取り出して、笑って言う。
 どうやら、マップで服屋の場所を調べているらしい。
「なんで鞄買いに行くのに服屋なんだ?」
「え? だって海里の服、制服しかないじゃん。ずっと俺の貸してるわけにもいかないだろ。それに海里細いから、俺の服ちょっとデカいし」
「うっ」
 痛いところをつかれた。
 確かに俺は、零次の服がでかい。ズボンはベルトをしないとずり落ちるし、トップスは袖に三センチくらいの空きがある。
「お前服のサイズ、Sだろ。俺はMだぞ。なんで身長と靴のサイズは同じくらいなのに、服のサイズは違うんだよ。太れ」
「べ、別に好きで細いんじゃないし」