「……ありがとう」
母さんは俺を見てそう言ってから、向かい側のベンチに腰を下ろした。
「はぁ……」
ため息を吐いてから、零次は俺の隣に腰を下ろした。
「あのね海里、私あの人と離婚して、家を売ったの」
「……父さんは、離婚に反対しなかったの?」
「反対されたわ。でも説得したの。あの人、変なこと言ってたわ。お金を引き落としたのは海里を連れ戻すためだ。お前ならわかってくれるだろうとか。頭可笑しいわよね」
「……うん」
どうやら、父さんは相変わらず変な事ばっか言っているらしい。
「……俺の親権者は、母さんだよね?」
「もちろんよ! そのことを話したくてここに来たの。海里の苗字は、井島から瀬戸になったのよ。あの家は離婚をした日に売って、買い取り手も見つかったの。家を売ったお金はあの人と折半したわ。それでね海里、私、今はそのお金で問題なく生活が出来そうなアパートの一室とかを探してるんだけど、よかったらそれが見つかったら一緒に暮らさない? 今すぐには無理だけど、お金がたまったらまた学校にも通わせてあげるから。私、海里とやり直したいの」
「……俺は一緒に暮らしたくない。零次といる」
俺は零次のTシャツのすそをぎゅっと握りしめた。
「零次くんといて、どうするの? 家賃は? 生活費は? あの人から盗んだお金が尽きても居候する気なの?」
「それは……っ!」
返す言葉が見つからず、俺は押し黙る。
「……俺はそれでいいです。こいつが俺といたいと思ってくれてるなら、居候でいい。家賃も生活費も請求しません」
俺の背中を撫でながら、そう零次はいう。
「何を言ってるの零次くん。そんなの馬鹿げてるわ」
母さんは眉間に皺を寄せて、零次を見る。
「それでも俺が払います。学費も、家賃も生活費も全部俺が払います。俺がコイツを養います」
「零次くん、そんなことが本当にできると思ってるの?」
「できるかどうかじゃなくて、そうでもして暮らしたいという意思があるかどうかが大事なんじゃないですか。……俺は貴方みたいに学費を払えないなんて絶対いわない。俺がコイツを幸せにします」
零次は防寒具の内ポケットからお年玉袋を取り出して、テーブルの上に置いた。