ラインで零次に席の場所を教えると、五分もしないうちに、誰かが俺のいる席に無言で近づいてきた。
 零次が来たのかと思って、俺は顔を上げた。その瞬間、俺は固まった。人形みたいに。
 目の前にいたのは零次ではなく、割り箸と紙の箱の上にたこ焼きが乗ったトレイを持った母さんだった。
「は? か、母さん? なんでいんの?」
 そういうのに、およそ一分を要したと思う。それくらい俺は動揺していた。
 母さんはそんな俺を見て、今にも泣きそうな顔をして笑った。
「か、海里、あのね……」
 母さんがテーブルの中央にトレイを置いたその瞬間、俺は慌てて立ち上がって後ろに
後ずさった。
「くっ、来んな! 人の幸せ壊しといて、のこのこ会いにくんじゃねぇよ!」
 震えながら俺は叫ぶ。
 叫んだ瞬間、テラスにいた人がみんな俺と母さんを見た。人が少ない分、よく声が響いたらしい。
「海里、おちつけ! 俺が呼んだんだ」
 慌てた様子でテラスの出入り口から零次が出てきて、走って俺に近づいてくる。
「……零次が、呼んだ? ……まさか、一昨日か?」
「ああ、そうだ。…お前は会いたくないって言ってたけど、俺はそれでも会った方がいいと思ったから、今日のお昼頃にホームセンターに来るように伝えたんだ」
「じゃあ服装とかの連絡はしてなかったのか? それでなんで会えたんだよ」
「確かに服装の連絡はしなかったけど、俺が白髪なのは伝えたから。フードコートにいる白髪の高校生くらいの男だってわかってれば、だいぶ絞られるだろ」
「余計な世話焼くな!」
「それがお前の本音か? 本当に何も話したくないのか?」
 俺の肩に手を置き、しっかりと俺の目を見つめて零次はいう。
「……話したくない。話したいことなんてない」
「海里、本当にいいのか?」
「いい。話さなくて」
 母さんが近づいてきて、俺の手をぎゅっと掴んだ。
「お願い海里。少しだけ話を聞いて」
 俺は何も言わず、母さんの手を振りほどいた。
「海里、話だけでも聞いてやれよ」
 零次が俺の両腕を掴んでいう。
「お前はどっちの味方なんだよ!」
「お前の味方だよ! 海里の味方に決まってんだろ? じゃなきゃ呼ばねぇ!」
 俺は何も言わずに席の方に戻って、ベンチに腰を下ろした。