家具コーナーには、白やベージュなどの横道な色のから緑や紺など、実に様々な色のソファがあった。
「海里は何色のソファがいい?」
 色々なソファを見回した後、零次は俺を見て首を傾げた。
「紫」
 俺はそっけなく答えた。
「へえ? 紫好きなのか?」
「……好きなの零次だろ。テーブルも、カーテンも整理タンスも全部紫じゃん」
 呆れながら、俺は呟く。
「あ。バレてる?」
「当たり前だろ。あれで紫好きなんだと思わない奴がどこにいんだよ」
 零次を横目に見て、俺はつっこんだ。
「そうだよなぁ……」
 零次は目じりを下げて、悲しそうに作り笑いをした。
 紫色のソファを触る零次は、憂いを帯びた雰囲気を醸していた。
「紫好きなの俺じゃなくて母さんなんだよ。母さん紫すげえ好きで、家具だけじゃなくて、部屋の香りや身につける香水も紫の植物のラベンダーにするくらい本当に好きでさ。それで、紫色のついつい買っちゃうんだよな。紫色の買ったら、家に母さんがいるような気がするから」
「……寂しいんだな」
「ああ、寂しいよ。まぁでも、しょうがないのかなぁとも思うけどな。……俺の父さん、仕事人間で顔合わせるたびに俺と母さんに仕事の話してたから。団らんの時間なんて本当に一切なかったし、息苦しかったんだと思う」
 作り笑いをして、零次はいう。
「でもそれだけで、子供をおいて自殺するか?」
 毎日愚痴言われるのは確かにいやだし大変だと思うが、子供ををおいて自殺するほどだろうか? 
「すんじゃねぇの? 子供に虐待するくらいひでぇ親もいれば、子供おいて自殺するくらいひでぇ親もいるだろ」
 自殺したのには他にも深いわけがありそうな気がしなくもなかったが、俺は零次のその言葉を聞いて深く詮索するのはよそうと思い、ただ頷いた。


「じゃ、これ買うか!」
 紫色のソファの上に座って、零次は言う。
「うん!」
 零次と同じようにソファの上に座って、俺は頷いた。

 ――ん?

「零次、髪は紫色にしようと思わなかったのか?」
「ああ。この色の方が、チャラさが強調されるかと思ったから」
 零次の発言に俺は顔をしかめる。
 聞かなければよかった。
「聞かなければよかったと思ってるだろ」
「だって、まさかそんな答えが返ってくると思わなかったから。女子に申し訳ないとか思わないのか?」
 眉間に皺を寄せて、呆れ顔で俺は言う。
「だってみんな了承してるし」
「……本気で好きだけど、しょうがなく了承してる奴もいんじゃねぇの?」