でも、閉じ込められてた時よりはマシだな。
俺は汚物を流すと、洗面所に行って十回くらいうがいをしてから、鞄を持って自分の部屋に行った。
――ドンッ!
「わっ」
鞄を投げたら、テーブルに当たってだいぶ大きな音がした。ビビった。……虐待をされるようになってから、何事にも敏感になりすぎだ。……本当に嫌になる。
俺は着替えとタオルを用意してからまた洗面所にいって、服を脱いで洗面所の奥にある風呂場に入った。
「はぁ……」
温度をぬるくしたシャワーで体を流しながら、ため息をつく。
気持ちいい。落ち着く。生き返る。虐待でできた傷がしみて痛いけど。
「うわっ」
俺は急な立ちくらみに襲われて、思わずシャワーの機械を落とした。
……熱中症になりかけているのかもしれないな。
「はぁ」
シャワーの機械を拾い上げて、ため息をついた。
俺は陰鬱な気分で頭と身体を洗って風呂から出ると、身体をタオルで拭いて、部屋着に着がえた。
俺はその後、自分の部屋の中央にしいてあった布団にもぐって、声を殺して泣いた。
声を上げたら、父さんに『虐待がバレるだろ』って言われて、殴られると思ったから。
いや、声を上げなくても殴られるか。……じゃあこうする意味ってなんだ。叫ばなければ、暴力の度合いが軽くなるのか?
……いや、果たして本当にそうなのか?
暴力の度合いなんて、父さんの機嫌で左右されるんじゃないか。
「おい、風呂から出たならそれくらい教えろよ」
部屋のドアを蹴られ、低い声で囁かれる。
ドアを蹴られただけで身体が震えて冷や汗が出た。
嗚呼。
……人形になりたい。
いつもいつも無理矢理嫌なことをされて、屈辱や痛みを味わうハメになるくらいなら。いつもいつもこんなに精神をすり減らすハメになるくらいなら、いっそ感情なんかなくなればいい。
だって感情がなくなれば、苦しいとも痛いとも辛いとも考えずに済むのだから。
どうせ逃げられないなら、感情は不要だ。あっても、辛くなるだけだ。
そう分かっているのに、俺はいつまで経っても感情をなくすことができない。
――逃げたい。逃げられないなら、自殺したい。
辛い目に遭いたくない。痛いのも苦しいのも、辱めを受けるのも嫌だ。そういうことを毎日され続けるハメになるくらいなら、自殺したい。
あるいは、さっさと刃物とかで殺されたい。
「……どっちも無理だよ、馬鹿」