「え?」
「……俺、まだ、母さんと会う勇気でない」
 俺はスマフォを拾い上げて、ロックを解除したそれを零次に渡した。
「……海里、本当にそれでいいのか?」
 零次はスマフォを受け取ってから、首を傾げる。
「……いい」
「たぶんいつまで経っても、そんな勇気なんて出ないぞ。それでもいいのか?」
「……いい」
「わかった」
 阿古羅はしぶしぶといった様子で、母さんにラインを送った。

 翌朝。
 阿古羅と一緒に学校の近くに行くと、校門のそばに父さんがいた。俺はそれを見て慌てて阿古羅の腕を引いて、近くにあった建物の壁に隠れた。
「海里、どうした?」
 阿古羅が不思議そうに首を傾げて、俺の顔を覗きこむ。
「……校門に父さんいた」
「じゃあ、一週間くらい学校さぼって、俺と遊ぶか!」
「え?」
「一週間さぼれば、流石にあのクソ親も待ち伏せやめるだろ。お前を守るには、そうさせるのが一番有効かと思ったんだけど、違う?」
 陽気に笑いながら、阿古羅はいう。
「……違くないと思う」
「じゃあ決まり! それじゃあ、私服に着替えて水族館でも行くか!」
「水族館……?」
 小声で呟く。
 そんなの虐待される前に家族で行ったの以来だ。
「あ、もしかして嫌い?」
「いや、そんなことない」
 慌てて否定すると、阿古羅は楽しそうにクククッと喉を鳴らして笑った。
「わ、笑うなよ」
「なんで? いーじゃん。俺は嬉しいよ乗り気なお前が見れて」
 阿古羅は心の底から嬉しそうに笑う。
「別に乗り気なわけじゃ……」
「いや乗り気だろ即答したし! 素直になれよ!」
「うるさい」
 俺は阿古羅を睨みつけた。
「悪い悪い。からかいすぎたな。お前がテンション上がってることってなかなかないから、嬉しくてさ」
 バツが悪そうに頭を掻きながら、阿古羅は笑った。
「……阿古羅」
「楽しもうぜ、海里!」
 ますます楽しそうに笑って、阿古羅は言う。
「……うん」
 俺はそれに、少しだけ笑って頷いた。作り笑いをしないで、ちゃんと笑った。
「あ、そうだ。奈々ちゃん達誘うか?」
「いや、いい」
「なんで?」
 俺の言葉に阿古羅は目を丸くする。
「……阿古羅が俺の人生を変えるって言ったから」
「りょーかい。ツンデレだな、海里は」
 ウィンクをして、阿古羅は冗談めかす。