あまりの内容に俺は言葉を失う。
――退学。
どうやら、恐れていたことが起きたらしい。
阿古羅のことを考えていたのに、一瞬で思考が退学のことで埋め尽くされる。
予想していたことのハズなのに心臓の鼓動が速くなって、身体が震えた。
突如、阿古羅が俺からスマフォを奪った。
「又聞きしててすみません。海里の友達の零次です。……あの、例えばですけど、俺がお母さんに金を渡したら、その金で海里の学費を払うことは可能ですか」
「は? お前何言いだしてんだよ?」
阿古羅の肩を揺さぶって、俺は叫ぶ。
まさか、母親の代わりに学費を払って、俺の退学を阻止するつもりなのか……?
《それは可能だけれど……まさか零次くん、君本当に私にお金を渡すつもりじゃないわよね?》
「いえ、渡します。近いうちに」
阿古羅の胸倉を掴む。胸倉を掴まれた阿古羅は、握っていた俺のスマフォを落とした。落ちた衝撃でスマフォは電源が切れ、通話を強制的に終了させた。
「……お前、正気か? 自分が今何て言ったかわかってるのかっ!?」
感情が高ぶって、俺は思わず大声で叫んだ。
「ああ、わかってる。俺はお前が自殺をしようとしたあの日、お前を救うっていった。退学もなんとかするっていった。だから俺がお前の学費を払う」
俺の問いに、零次はいたって冷静に言葉を返した。
「……は? ……お前、変だよ。意味わかんない」
俺は胸倉から手を離して、弱々しい声で言った。
「俺は変じゃねぇ! 正常だよ! お前の環境に本気で怒って、本気で我慢ならないと思ったから、自殺も防いだし、学費も払うって言ったんだよ! 俺がお前の人生を変えてやるよ!」
間を数秒も作らないでそう叫ぶと、阿古羅は俺の背中を優しく撫でた。
「うっ、うっ……」
涙が零れる。
信じていいのだろうか。
虐待をされているところで出会ったのも、俺が自殺を選択して、阿古羅がそれを止めたのも全部父さんに仕組まれたことじゃなくて、全部コイツの本心でやったことだと思っていいのだろうか。
あまりに漫画じみたその展開を、父さんの作為でできたものだと考えなくて、いいのだろうか。
……そう思いたい。
そう信じたい。
「……ありがとう」
涙を拭いながら、俺は礼を言った。
「おう! じゃあ母親に連絡して、いつなら金受け取れるか聞いてみてくれるか?」
俺は首を振って、阿古羅から離れる。
「……俺じゃなくて、阿古羅がそれ聞いて。それで、……俺にいつどこで母親と会うとかも言わなくていいから、一人で金渡しに行って」