「はぁー。なんでそんなに元気ないんだよ。もしかして、あのまま死んでた方が良かったとか思ってんの?」
 阿古羅はしゃがみこんで、俺の顔を覗きこむ。
「それは思ってない」
 俺は慌てて、首を振った。
「じゃあなんでそんなに元気ないんだよ」
 俺を見て、阿古羅は本当かとでもいうかのように眉間に寄せる。
 随分納得していない感じだ。
「そんなことない。元気だよ。大丈夫」
 俺は阿古羅に、嘘を付いた。
 阿古羅が父親に言われて俺の弱みを握ろうとしている可能性をまだ否定しきれなかったし、何かの拍子に虐待のことを思い出すのなんていつものことだし、それくらい本当に大丈夫だから。
「……から」
 顔を伏せたまま、阿古羅はか細い小さな声で言った。
「え?」
「俺の前では強がらなくていいから。大丈夫とかいわないで、辛かったら辛いって言っていいから」
 聞き返すと、今度は顔を上げて、しっかりと俺の目を見据えて阿古羅は言った。
「……うん、ありがとう。でも本当に大丈夫」
 俺はそれにまた作り笑いをして頷いた。
 この笑顔の裏に何があるか分からなかったから。
 俺はその後阿古羅が作ってくれたご飯を食べると、スマフォを阿古羅に預けて着替えとタオルを用意して風呂に入った。昨日から風呂に入ってなかったから。
 風呂は三点式ユニットバスで、トイレと洗面所と風呂が一緒になっていた。きっとその方が金がかからないからだろう。

 風呂をでると、俺はすぐに部屋着に着替えた。
 着替え終えた直後、阿古羅が着信音を立てている俺のスマフォをもって、脱衣所に入ってきた。
「海里、母親から電話きてる」
「えっ」
 母さん?
「出る?」
 俺にスマフォを差し出して、阿古羅は尋ねる。
「……うん、出る」
 俺は震えながら、スマフォを受け取った。
「もしもし、母さん?」
《海里? よかった! 無事なのね!》
「うん。……とっ、友達に自殺止められて」
 友達と俺は言った。阿古羅がそれを聞いて、どんな反応をするか確かめたかったから。
 たぶんスパイなら、大して反応しない。
 スパイじゃないなら、きっと驚く。
 阿古羅は歯を出して嬉しそうに笑い、俺の肩に自分の肩をくっ付けてきた。
 スパイのハズなのに、まるで友達と言われて嬉しいとでもいうかのように、阿古羅は反応した。
 ……一体どっちなんだよ。
 阿古羅の態度を見て、俺はまた混乱した。

『スピーカーにしろ』

 混乱している俺の顔を見つめながら、小声で阿古羅は言う。俺は頷いて、言われた通り通話をスピーカーにした。

《そっか……。あのね海里、お母さんあの人と離婚するから》
 スピーカーにした途端、母親が信じられないことをいった。
「え、なんで?」
《今朝ね、お父さんが海里の学費を払うのに使ってた私の口座から、勝手にカードを使ってお金を全額引き落としたの。学費を滞納して、海里を退学させるために》