阿古羅の部屋は隅に紫の布団が掛かった黒いベッドと、紫の整理タンスと紫のハンガーばかりがかかったハンガーラックが置かれ、中央辺りに紫のテーブルと黒いテレビが置かれていた。
 いくらなんでも紫ありすぎやしないだろうか?
 不自然なくらい多い。

「……えっとごめん、海里俺のベッドで寝れる? それが無理なら寝袋くらいしかないんだけど」
 阿古羅は申し訳なさそうに手を合わせた。
「えっ」
 予備の布団とかないのか。
「いや本当、マジでごめん! さっきはこれからのこととか何も考えずに一緒に暮らそうって言っちゃったからさ」
「……ああ、そっか。俺、急に死のうとしたもんな」
「全くだ‼ お前が急に死のうとするから、同居を提案する前に布団を買うこともできなかったんだよ!」
「ご」
「ストップ! 謝んなくていいから。俺、もともとお前と同居するつもりだったし」
 阿古羅は俺が謝ろうとするのを、俺の口の前に手をやって制した。
「……なんで?」
「ん?」
 阿古羅は俺の口から手を離して、首を傾げる。
「何で阿古羅は、俺と同居しようとしてくれたの?」
「お前が虐待を受けてたから」
「それはそうだろうけど、他にも理由があるんじゃないのか?」
 行動が変なことは本人には言わない方がいいと思ったから、言い方を変えてみた。
「んー、海里と友達になりたいと思ったから、じゃ駄目か?」
「え? 友達?」
 俺は目を丸くする。予想外の答えだ。
「ああ。簡単に言うと、海里が放っておけなかったんだよ。そんだけ」
 俺は眉間に皺を寄せた。
 ……本当にそれだけか?
「なんか照れるし、もうこの話やめていいか?」
 阿古羅が顔を赤くしながら言う。
「……わかった」
 俺はしぶしぶ頷いた。
「そんじゃあ海里、とりあえず今日は俺のベッドで寝てもらっていいか? 本当に申し訳ないけど。少なくとも、寝袋よりはよっぽど寝心地いいと思うから」
 阿古羅はバツが悪そうに頭を掻きながらそう言った。
「うん、わかった。ありがとう」
 俺は笑って頷いた。