「声ちいさっ! これからせっかく新しい人生が始まるっていうのに、テンション低すぎだろ!」
顔をしかめて、阿古羅は突っ込む。
「だって、さっきまで死のうとしてたから」
「そこは切り替えろよ! お前本当にテンション低すぎ! 熱がなさすぎなんだよ!」
「……熱がない?」
「ああ。お前には熱い心みたいなのがもう全然ないんだよ。虐待のせいで心が死んじまってて」
「熱い心がない……」
小さな声で俺は呟く。
「ああ。もう本当に心がないんだよ! 運転手さんもそう思いません?」
「……まぁ、確かに今時の高校生よりは大人しいかもな」
戸惑いながら、運転手は首肯する。
「大人しいどころの話じゃないですよ!! こいつ、本当に滅多に笑わないんですから!」
「……確かに、笑わないな。ここまで送った時も終始無言で、外見てたし」
「え? 何それ気まず! お通夜か! お前そんな元気なかったのか?」
阿古羅は手を握るのをやめて、俺の背中を軽めに叩いてきた。
「……うっ、うん」
俺は阿古羅の声があまりに大きいのと、叩かれたことに戸惑いながら肯定した。
「じゃ、そんなお前が元気になれるように、ちょっと寄り道するか」
悪戯っぽく微笑んで、阿古羅は言う。
「え? 寄り道?」
「お前んち行こうぜ。まぁそうはいっても、離れたところからクソ親見るだけだけど」
「いい!」
俺は慌てて声を上げた。
「そんなこと言わずに、行こうぜ? いいもん見せてやるから」
阿古羅の強引さにおされ、俺は運転手に家の住所を告げた。
阿古羅は俺の家から少し離れたところにある公園の前で、運転手にタクシーを止めるように言った。
公園は中央に滑り台があり、入り口のそばにブランコとジャングルジムがあった。
「おお、ジャングルジムあんじゃん! 滑り台とかもあるな! ちょっと遊ぶか?」
歯を出してにやにやと笑って、阿古羅は言う。
「……遊ばない。なんでここに来ようなんて言ったんだよ?」
「今に分かる」
阿古羅がそう言った直後、家から怒号が聞こえた。
「あいつ……許さない! ぜったいに見つけて殺してやる!!」
父さんの声だ。
思わず身震いして、俺は小さく縮こまる。
「大丈夫。あいつからは俺が守るよ」
阿古羅はそういって、笑って俺の背中を撫でてから、ジャングルジムの上に登った。
「阿古羅……」
その言葉を信じていいのかわからなくて、俺はだだ阿古羅を見つめることしかできなかった。



