なんで。
何でお前がそんなに怒るんだ。
なんでそんなに俺なんかの為に必死になってくれるんだ。俺達はただの同級生で、親友でも幼馴染でもないのに。それなのに、なんでそんなに怒ってくれるんだ。なんで我慢ならないって言ってくれるんだ。
何でそんなに必死で、俺が死ぬのを止めようとすんだよ。
意味わかんねぇよ。
……まさか、スパイだからか?
俺の弱みをつかんだら、何か欲しいものを買ってやるとか父さんに言われているのか?
それで俺に声をかけたのか?
知り合いが死ぬ辛さを知ってるからとか、自由になれだとかいったのは味方だと思わせるための詭弁で、全部嘘なのか?
だってそう考えないと説明がつかない。
高校生がぬいぐるみにカメラをつける理由も、俺の自殺を止める理由も、父親のスパイだということなら、全部納得がいく。
でも本当にスパイなら、なんでわざわざあるのをバラした?
そんなことしてもマイナスにしかならないのに、それなのになんで?
スパイじゃないからか?
昨日言ったことは全部事実で、本気で俺を死なせまいと思ってるからなのか?
そのためだけにカメラをつけたのか? それは幾らなんでも度が過ぎてないか?
行動に不可解なところが多すぎて、俺は混乱した。
「このまま終わっていいのかよ? あんなくそみたいな父親に何かも奪われたままで! 今死んだら、絶対後悔するぞ!!」
俺の胸倉を掴んで、阿古羅は叫んだ。
「じゃあどうしろって言うんだよっ!? 毎日毎日どんなに泣いても謝っても殴られて、反抗したら余計酷い目に遭って。大好きな母さんにも、手当しかしてもらえなくて!こんな日常、もううんざりなんだよ!」
俺は阿古羅の腕を無理矢理振りほどいて、叫んだ。
もしもスパイだったら、コイツの言う通りにしない方がいいと思ったし、本当に生きてることにうんざりしてたから、そうした。
「じゃあ、一緒に暮らそう」
阿古羅はやせ細った俺の背中を撫でて、とても優しい声色で囁いた。
「……は?」
腕から力が抜け、俺はぬいぐるみを地面に落とした。
阿古羅は俺を見て、目尻を下げて笑った。
「一緒に暮らして、くそみたいな生活からおさらばしようぜ。前も言ったけど、俺一人暮らしだから、本当に俺の親に虐待のこと話さなくていいから、二人で暮らそう」
「なっ、なんでそこまで」
か細い小さな声で呟きながら、俺は後ずさる。