「あ」
タクシーでいけばいいんじゃないか?
俺はダメもとで父さんの財布をもう一度あさり、キャッシュカードを探した。財布のカードを入れるとこの裏に、キャッシュカードが一枚だけ入っていた。……マジか。
俺はすぐにコンビニに行き、キャッシュカードからお金を引き落とそうとした。だが暗証番号がわからなくて、それを実行に移すことができなかった。
なんだろう。ありえそうなのは父さんの誕生日か、母さんの誕生日か、あるいは結婚記念日とかか? それくらいしか思いつかない。
とりあえずその三つを入力してみるか? たぶん、どれも正解じゃないけど。
順々に番号を入力してみると、母さんの誕生日を入力したところで、ロックが解除された。
「……は?」
なんで母さんの誕生日でロックが解除されるんだよ。
そんなのまるで、父さんが母さんを好きみたいじゃないか……。
……好きなのか?
父さんは母さんのことが好きなのか?
俺を苦しめてたのは、母さんが仕事で忙しくて俺しかいじめられないからじゃなくて、俺だけをいじめたいと思っていたからなのか?
そんな……。
その可能性がないと思っていたわけではなかった。なくはないと思っていた。でもまさか本当にそうだなんて思ってもいなかった。
……いや、考えたくなかったんだ。
その可能性を考えたくなかった。
だってもしそうだったら、父さんは俺だけを殺したがっているということになってしまうから。
そんな風に考えたくなかった。
俺だけが嫌われてて命を狙われているなんて考えたくなかった。だってそんなの余りに辛すぎる。
そんな展開、絶対に嫌だと思っていた。
それなのになんで。何でこんな結末なんだ。
なんで、死ぬ直前でこんな事実を突きつけられなきゃなんないんだよ……?