目が覚めると、俺は天国でなくて、家のダイニングのソファの上で仰向けになっていた。
　ダイニングはソファの他にはテーブルとテレビとゴミ箱があるだけだった。
「……いつ見ても、物が少ないな」
　俺の家は、母さん意外に家具や服に興味ある人がいないからか、必要最低限なモノしかない。
　母さんは、一年半前まではたくさんの家具や観葉植物を買っていた。
　あのガレージだって、元々は母さんが金をはたいて依頼して、作ってもらったものだ。
　でももう、それらはこの家のどこにもない。
　ガレージは燃やされて、家具や観葉植物は、母さんがメルカリとかで売った。生活費を稼ぐために。
「いたっ！」
　頭部が痛んで、俺は思わず左手で頭を押さえた。すると、手が包帯のような感触のものに触れた。
　……母さんが巻いてくれたのだろうか。
　俺は包帯がちゃんと巻かれているのを確かめたくて、辺りを見回して、鏡を探した。
「あ」　
　ソファの近くに、血を丁寧に拭き取られたスマフォと、プリクラと、洗いたての真っ白な猫のぬいぐるみが置いてあった。
「あ」
　ぬいぐるみがある場所から少し離れたとこに洗いたての鞄が置いてあって、その隣に所々が血で変色している教科書とノートとペンケースが置かれていた。俺の血で汚れたのか。……三つとも使い物にならなくなっちゃたな。
　
　俺はスマフォに触れて、暗い画面に映った自分の姿を見た。
　後頭部と右手に包帯が巻かれている。見るだけで痛々しい。
　スマフォの電源を入れて、時間を確認した。
　夜中の二時だ。
　殴られ始めたのがたぶん夜の八時くらいで、倒れたのが九時くらいだろうから、どうやらだいぶ気絶していたようだ。
「いった！」
　俺はまた、猛烈な痛みに襲われた。
　体中が痛い。痛すぎる。
　……これじゃあ明日は絶対授業に集中できないな。
　そもそも俺は明日学校に行けるのか？　
　今日は大怪我だけで済んだけど、明日の朝はいよいよ殺されるんじゃないか？　ならばいっそここから逃げてしまおうか。それで自殺でもするか？
　……父さんに殺されるか、あるいは餓死とかして他殺に偽装されるのはナシだ。だってそんなことになったら、俺が死んだ後、父さんが良い想いをすることになるから。それなら自殺が一番いい死に方なんじゃないか？　
　――おい。死にたくないんじゃなかったのか。
「ハッ」
　笑える。
　……散々死にたくないって思っていたくせに。
　自分の生きたいって意志を殺そうと思っても殺せなかったくせに。
　阿古羅に、それをもの凄い簡単に見破られたくせに。それなのに、あんな風になす術もなく痛めつけられただけで、俺は自殺を考えるのか。
　……弱いな。まるでゴミみたいに弱い。
　でも、しょうがないのかもしれない。
　こんな地獄で生きてたら、弱くなって当然だ。
　じゃあ、本当に自殺してみるか？　こんな世界で生きてても、少しも楽しくないし。