「いっ!!」
 やっと絞るのやめたと思ったら、今度は脛を蹴られた。
「今日は随分反抗するんだな。俺の奴隷の分際で」
「俺は、父さんの奴隷じゃない!!」
「いいや、お前は俺の奴隷だ。お前は俺のために生きて俺のために死ぬんだよ」
 そういうと、父さんは俺の口を右手で塞いだ。
 俺は父さんの右手を思いっきり噛んだ。
「お前っ!!」
 父さんは何度も何度も俺の頭を叩いた。
 叩かれすぎた頭は、血を噴き出した。……痛い。でも、今噛むのをやめるのは嫌だ。だって、反抗するって決めたから。
「いい加減にしろ!!」
 腹を力いっぱい殴られた。
 真後ろにあった壁に背中が衝突して、身体が膝から崩れ落ちた。
「うあっ!!!」
 左頬を足で踏まれた。父さんの革靴が頬に食い込んで、めちゃくちゃ痛い。
「……っ。とっ、父さん、なんで、こんなことすんの?」
 痛すぎて、声を出すのも一苦労だ。
「わからないのか? 俺は今、本気でお前を殺そうとしてるんだよ」
「……なんで?」
「お前が悲鳴を上げたせいで、虐待がバレだからだよ。このまま生かしてたら、俺がお前の友達に通報されかねないだろ。だから、そうなる前にお前を道路に連れ出して、車に轢かせる。本当はお前がもっと弱ってから殺すつもりだったんだけどな」
 そういうと、父さんは足を俺の頬から、鎖骨に移動させた。
 目の前にいるこの男は父親ではなく殺人鬼なのではないかと思った。実の息子を傷つけるだけならまだしも、車に轢かせようとするなんてとても信じられない。
「……父さん、そんな嘘、いつかバレるよ?」
 火傷した鎖骨を、容赦なく蹴られた。
「うっ」
「いつかバレても、借金を返せるなら別にいいんだよ」
 俺は悲鳴を上げている鎖骨を無理に使い、父さんの身体を両手で押した。父さんは俺の両手を片手で、ひとまとめにつかんだ。
「抵抗するな。死んでくれよ、海里。お前が死んでくれれば、その保険金で俺と母さんはもっと裕福に暮らせる。もっとちゃんとやっていけるようになるんだよ。だから海里、俺の為に死んでくれ。それがおまえができる一番の親孝行だよ」
 親孝行って、子が親を敬い、親に尽くすことだっけ? 俺がそれをする手段が死ぬことだっていってるのか? 
 ……なんだよそれ。すげぇめちゃくちゃだな。
 ……今更か。そもそも親が子供に虐待をする時点でだいぶめちゃくちゃだ。