「はぁ……」
 家に着いてしまった。
 どうしよう。たぶん今、父さんは凄く機嫌が悪い。
 昼休みに俺を満足にいたぶれなかった上に、阿古羅に虐待を目撃されたんだ。それで機嫌が良いわけがない。俺の帰りが遅いのも相当気がかりに想っているハズだ。
「阿古羅の家にいけば、よかったのかなぁ……」
 何を言っているんだ俺は。せっかくできた友達をまきこんでどうする。それに、居候になるだろうが。
「はぁ……」
 俺は鞄の中から取り出した鍵でドアを開けると、ゆっくりと家の中に足を踏み入れた。
「お帰り、海里」
 玄関で、父さんが俺を待ち構えていた。父さんは左手を後ろ手にやっていた。どうやら、左手で何かを持っているようだ。……凶器か?
「海里、ドアを閉めろ」
 父さんは家の前の道路に人がいないのを確認してから、握っているものを俺に見せてきた。
「――っ!?」
 包丁だった。
「もう一度言う。ドアを閉めろ」
 俺は手に持っていた鞄を父さんの足に向かって投げると、全速力でガレージのとこまで走った。
「はあっ」
 俺はガレージのドアを閉めると、ため息を漏らした。
 ……反抗できた。

「海里、お前、猫なんか好きだったか?」
 ドア越しから、そんな声が聞こえてきた。
 猫というのがぬいぐるみのことなのは、言われなくても分かった。
「……好きだったら、なんなの」
「ドアを開けないと、鞄ごとコイツを燃やす」
 阿古羅が俺のためを想ってくれたぬいぐるみを燃やされるのは嫌だ。
 俺は何も言わず、ドアを開けた。
「ククッ、素直だな」
 俺の鞄を持った父さんがガレージに入ってきて、そんなことを言う。
 俺は何も言わず、拳を握り締めた。
 父さんは包丁を持っていなかった。たぶん、近所の住人に包丁を持ってるのを見られたらマズいと思って、しまったのだろう。
 父さんはガレージのドアの鍵を閉めると、鞄を俺の顔に向かって投げてきた。俺は慌てて横にずれて、それをよけた。
 鞄がガレージの壁に激突して、地べたに落ちる。壁に勢いよくぶつかったせいで、鞄から阿古羅と食べて空になったポテトチップスの袋と猫のぬいぐるみと、スマフォと、プリクラが飛び出した。
「お前、プリクラなんか撮ったのか。まさか、この女達にも虐待のこと話したのか?」
 父さんはプリクラを拾い上げると、それをまじまじと見つめながら顔をしかめた。
「……話してない」
「嘘を吐くな。話したんだろ!」
 そう言うと、父さんは俺と距離を詰めてきた。俺は慌てて、後ろに下がった。
 父さんは壁が真後ろにあるとこまで俺を追い詰めると、鎖骨を触ろうとした。俺は父さんの手を振りほどこうとして、左手を前に出した。
「うぁっ!!」
 左手を両手で掴まれて、雑巾みたいに絞られた。滅茶苦茶痛い。
 俺は火傷している鎖骨を無理矢理動かして、右手で父さんの腕を掴んだ。