「……何が?」
「また遊ぶのがだよ! な?」
 俺と咲坂と茅野の顔を順々に見て、阿古羅は笑う。
「うん!」
 咲坂はまた元気よく頷いた。
「そうね」
 茅野はがほんの少しだけ口角を上げて頷いた。
 阿古羅は返事をしない俺を、じっと見つめた。
「……まぁ、そうだな」
 小さな声で、俺は頷いた。
 その後、俺と阿古羅は咲坂達と分かれ、UFOキャッチャーでポテトチップスをとったり、レースゲーム機なんかをしたりして遊んだ。
 早く家に帰らないと父さんに殴られると分かっていたのに、対戦ゲームで勝った方が次にするゲームを決めるだとか、そんなよくわからないルールを作って、何時間も馬鹿やった。
 そうやって俺は、酷い現実から目を背けたんだ。
「あー楽しかった! ごめんな? 短くて済むとか言ったのに、結局二時間もゲーセンつき合わせちまって。流石にそろそろ帰らないとだよな?」
 六時くらいになった頃、阿古羅はそう言って申し訳なさそうに顔の前で手を合わせた。
「……まあ、うん」
 ――帰りたくない。
 でも、帰らなきゃ。
「俺はあんな家、一生帰んなくていいと思うけどな」
「……でも、他に行く場所ないし」
 顔を伏せて、弱々しい声で言う。
「あるよ」
「え?」
「俺の家来ればいいじゃん」
 阿古羅はどうってことない雰囲気を装って、随分軽々しく言い放った。
「それは……」
「やっぱ来ない?」
「……うん。ごめん」
「フッ。謝んなくていいよ。仲良くなったばっかなのに同居提案されても戸惑うよな」
「……うん」
「海里、今日何で俺がお前をゲーセンにつき合わせたと思う?」
 腕を組んで、阿古羅は言う。
「実感して欲しかったからだよ。自分の環境の異常さを。そして思い出してほしかった外の世界の楽しさを」
「……外の世界の楽しさ?」
 俺はただ阿古羅の言葉を繰り返す。
「おう。プリのラクガキとか、ゲームすんの楽しかっただろ? そういうの感じて
もらいたかったんだ。それで生きるのは楽しいことだって実感して欲しかった」
「……生きるのは、楽しい」
 小さな声で俺は呟く。
 虐待されるようになってから、そんなこと一度も考えてなかった。
「そう思えた?」
 俺の顔を覗きこんで、首を傾げて不安げな様子で阿古羅は言う。
「……そう、だな。つまんなくはなかったかな」
 同意はしたけど、本心は口に出さなかった。本当は凄く楽しかったけど、そんなことをいったら欲が出てしまいそうだったから。もっと遊びたいと思ってしまいそうだったから。
「じゃあまた遊ぶか?」
 阿古羅が歯を出して、上機嫌な様子でいう。
「……気が向いたら」
 俺は阿古羅から目を逸らして、どうでもよさそうな感じを装って言った。
 そうしないと、また遊びたいと思ってしまいそうだったから。父親に人生を縛られている俺がそんな願望を持っても、きっとろくなことにならない。
 俺達はそれから辺り触りない話をしながら歩いて、各々の家に向かった。