「こいつ、今日みたいに放課後遊べることなんて本当に滅多にないから、いつも財布持って来ないんだよ。お昼はお弁当だしな。だから、いつものクセで持ってくるの忘れたんだよな?」
 阿古羅が俺を見てウィクをする。

「うっ、うん。そうなんだ」
「そっか。お母さんとお父さん、そんなに怖いの?」
「……うん。父さん、ちょっと怖いかも」
 本当はちょっとじゃなくて、滅茶苦茶怖い。
「……そうなんだ。大変だね。何か私にできそうなことあったら、言ってね? 力になるから!」
 咲坂が同情をするみたいな顔をして言う。
 俺は小さな声で頷いた。
 俺はその後、すぐに自分の分と阿古羅の分の小銭を入れた。
『チャリン!』なんて音が二回して、画面に映っていた0/4という数字が、2/4に切り替わる。
 奈緒と美和が俺に続いて百円ずつ小銭を入れて、画面を慣れた手つきで操作した。
「海里くん、背景どんなのがいい? ちょうど四つ選べるみたいだから、好きなの一つ選んでよ!」
 咲坂が背景選択の画面まで操作してから、俺に声をかけてくる。
「うっ、うん」
 画面には青や白など、シンプルな一色だけの背景や、ハート柄や花柄の背景、それに夜景や夕焼けのなど、様々な背景が表示されていた。
 ……どれがいいんだろう。
「海里、気になんのとかねぇの?」
「……んー、特には」
「じゃあこれは?」
 そう言って、阿古羅は夕焼けのを指さした。
「なんで夕焼け?」
「覚えといてくれよ、今日の夕方のことを。初めて放課後に友達と遊ぶことが出来たこの瞬間を」
〝虐待されて以来初めて〟と阿古羅は言わなかった。それはきっと、咲坂達に俺が知られたくないと思っているのをわかっていたからだ。
「……うん、わかった」
 俺は阿古羅の言葉に頷いて、夕焼けのを選んだ。
「あたしはハートのがいいな。阿古羅君と美和は?」
 咲坂がハート柄のを選択してから、茅野と阿古羅を見る。
 茅野は夜景の背景を選択して、阿古羅は紫色の背景を選択した。
 俺達はその後、ポジションとポージングを撮影ごとに変えて、プリを取った。
「海里、ラクガキするか?」
 プリを撮った後、阿古羅と咲坂がラクガキをしているのを茅野と見物していると、突然阿古羅に顔を覗きこまれた。
「えっ、俺……どういう風にやればいいかわかんないんだけど」
 咲坂と阿古羅を見ながら、俺は言う。
「アハハ! そんな難しく考えんなよ。名前ひらがなで書いたり、日付のスタンプつけたりとかしてかわいくすればいいだけだから。楽しいから、やってみろよ。二人でちゃんとやり方教えてやるから。な?」
「そうだね!」
 阿古羅に顔を覗きこまれると、咲坂は元気よく頷いた。
「海里、隣来いよ」
「……うん」
 小さな声で頷き、俺は咲坂と場所を変わってもらった。

 ラクガキ用の画面には、今ラクガキをしているプリの他にペンやスタンプ、メイクなどの項目があり、その他にはラクガキができる時間や、ちっちゃな撮ったプリの一覧表みたいなのが映っていた。