「あ! ちょっと待ってろ」
 そう言うと、阿古羅は突然俺達のそばにあった猫のぬいぐるみのUFOキャッチャーに金をいれ始めた。
 UFOキャッチャーの中には、頭の上にボールチェーンがついてて、ストラップとして使えるようになっているお座りした猫のぬいぐるみが所せましと入っていた。

 なんで急に始めたんだろう。猫が好きなのか?

 猫は白猫や三毛猫などの横道なのしかいなかった。
 女子に人気がありそうなラインナップだな。
 阿古羅は右端にいる白猫のぬいぐるみに狙いを定め、ボタンを押して、アームを上と右に動かし、どうにかぬいぐるみを取ろうとした。
 阿古羅が操作したアームが、ぬいぐるみのお腹あたりをがしっと掴んだ。

「あ!」
 俺は思わず声を上げた。

「ふふん。どうだ? 上手いだろ? ちゃんと見てろよ」
 阿古羅はとても自慢げな様子で言う。
 どうやらUFOキャッチャーには相当自信があるらしい。
 アームはそのままぬいぐるみを景品が出る穴の真上まで連れて行った。そして、ぬいぐるみを、穴の中に勢いよく落とした。
 そうなったのとほぼ同時に、俺のスマフォが音を立てた。
 ポケットからスマフォを取り出してみると、父さんから電話がきていた。

 マズい。
 帰んないと。

 阿古羅がぬいぐるみを持ってない方の手を使って、俺からスマフォを奪う。
「えっ。阿古羅何すんだよ!」
 慌てて取り返そうとすると、阿古羅はスマフォを上下左右に器用に動かして、俺の手を避けた。
「阿古羅!」
 もてあそばされてるのに腹が立った俺は、阿古羅を睨みつけた。
 阿古羅は俺に構わずスマフォを操作し続けた。
「零次!!」
 名前で呼んだ瞬間、阿古羅の手が止まった。
「やっと名前で呼んだな?」
 俺にスマフォを返すと、阿古羅はとても満足そうに笑った。
 もしかして、名前を呼ばせるのが狙いだったのか?
 思わず頬がかあっと赤く染まる。
 ――ハメられた!
「うっ、うるさい」
 俺は阿古羅から目を逸らして、小さな声でぼやいた。
 スマフォの画面を見ると、通話画面からホーム画面に戻っていた。
 余りの出来事に俺は寒気を覚える。
「通話なら拒否しといた。今は忘れろ父親のことなんか」
「で、でも早く帰んないと」
「帰っちゃダメにゃー」
 ぬいぐるみを俺の顔の前にやって、阿古羅は言う。
「ガキか」
 俺は呆れながら呟く。
「ガキはお前だよ馬鹿が。言っただろ父親に反抗しろって。それなのになんで今帰ろうとすんだよ」
 阿古羅は俺の頭をぬいぐるみで軽く叩いた。
 ぬいぐるみで叩かれるのは怖いとは思わなかった。ぬいぐるみなら別に痛くないから。
「……だって怖いし」
 俺は阿古羅の顔から目を背け、か細い声で言った。