「ゆびきりげんまん。嘘ついたら針千本のーます。指切った!」
 さっきの暗い表情とは全く違う顔で楽しそうに笑いながら、阿古羅は言った。

 ……ガキっぽい。

「俺はなにかあったら必ずお前を守る。だから、お前も命を粗末にするなよ」
 阿古羅は笑って、阿古羅は小指を離した。
 俺は何も言わず、ただ頷いた。

 ……読めない男だ。

 常時元気なのかと思えば、突然暗い顔をする。
 それに今まで話したこともない俺を「必ず助ける」なんて迷いなく言い切るなんて、とても妙だ。
 それでも父さんや母さんよりは、よっぽど信用できると思った。
 

 阿古羅はその後、ハンカチを再度水に濡らすと、蛇口の水を止めてハンカチを絞り、それを火傷したとこに当てた。
「あーこれ、きっと跡残るなぁ……。誰かさんのせいで言い合いになったから、冷やすの遅くなったし」
 阿古羅は隣で鎖骨を冷やしている俺を見て、不服そうにぼやいた。
「……ごめん」
「いやいや、謝んなくていいよ冗談だから。俺が庇いたいと思ったから庇ったんだし」
 阿古羅は笑いながら首を振る。
「……そうかもしんないけど、冷やすの遅くなったのは、俺と言い合いしたせいじゃん」
「でも言い合い始めたの俺だから。海里は何も悪くねぇよ」
「……悪いよ。俺、自分のことすげえ蔑ろにしてたし。俺が自分のこと蔑ろにしてなければ、今日言い合いにならなかったじゃん」
「まぁそれはそうだけど、お前がそう言う風に考えるようになったのって、あのクソ親が原因だろ? だからお前は何も悪くねぇよ」
 阿古羅はまた、手を上に上げた。
 俺はまた反射的に、頭を手で隠した。
 頭を撫でようとしていると分かっているのに、身体が無駄に反応する。
「……ごめん。ありがとう、気遣ってくれて」
 俺は手を下ろして、小さな声で言った。
「ん。もうだいぶ冷やしたか? 包帯巻いてやるから、傷見せろよ」
 手を下ろしてから、阿古羅は俺に笑いかける。

「え? 包帯なんてどこにあるんだよ?」
「ここにある」
 阿古羅は鞄から包帯を取り出した。

「……なんで鞄の中に包帯が入ってるんだ」
 俺は思わず眉間に皺を寄せた。
 絆創膏(ばんそうこう)とかならまだわかるが、包帯が入っているのはあまりに用意周到すぎる。