「……ごめん。……ごめんな。本当にごめん」
 耳元で囁くように言って、零次は俺を抱きしめる。
 零次の服に爪を喰い込ませて、声を殺して俺は泣いた。
「いいよ。我慢しなくて。馬鹿みたいに泣けばいい。もう離れないから」
 その言葉を聞いただけで、涙が堰を切ったように溢れ出した。
「うっ、ああああぁぁぁっ!!!」
 プライドもなにもかもかなぐり捨てて、俺は赤ん坊のように泣き喚いた。
「落ち着いたか?」
 三十分くらいで泣いたところで、零次は笑いながら俺の頭を撫でてくれた。
「馬鹿。……馬鹿零次。……大切にするつったくせに」
「なっ? 大切にしてるよお前のことは。だから助けた」 
 一瞬狼狽えてから、零次は頬を掻いて言葉を返した。
「してない。俺のことも考えないで死のうとしたじゃん」
「うっ」
 弱ったというように零次は俺の身体から手を離して、自分の口をおさえる。
「それにお前、あの日俺のこと助けなかったじゃん」
 俺はあの日、零次の父親に助けられた。海に飛び込んで溺れかけた俺を、零次は助けてくれなかった。
「だってあん時は、親父がお前を助けるって確信してたから」
「お前の親が俺を助けて、俺に零次はどうしたって聞くとこまで予想ついてたのか?」
「ああ。だから身投げした」
「零次は勝手だ。すげぇ勝手で、自己中だ。頼んでもないのに俺のこと勝手に救って、人の人生を勝手に変えて勝手にいなくなって。される側の気持ちを少しも考えてない」
「なっ!? ……俺だってなぁ、色々悩んで、お前のそばからいなくなろうって決めたんだぞ? 俺がいない方がお前は幸せになると思ったんだよ!」
 零次は眉間に皺を寄せて、俺を睨みつける。
「なんで? お前が親に殺されそうになってたから?」
「……そうだよ。俺といたらお前が俺を庇ったりして酷い目に遭うと思った」
「じゃあ零次は俺の幸福は、一生酷い目に遭わないで暮らすことだと思ったのか?」
「そうだよ」
「そんな幸せいらない! 欲しくない! お前がいないと、俺には生きてる意味もない! ……だって俺は、お前がいなかったらとっくに死んでたハズなんだから! お前がいなきゃ、俺は生きた心地がしないんだよ!!!」
 俺は零次の服をつかんで泣き崩れた。
「……そんなに嫌だった? 俺がいなくなんの」
「嫌だったよ! お前が死ぬのもいなくなんのも嫌だった!」
 零次の腹を何度も何度も叩いて、俺は叫んだ。
「ちょっ、痛い。障害者をそんな乱暴に扱うなよ」
「……乱暴に扱いたくもなるよ! だって四年だぞ! 俺がその間にどれだけ死のうと思ったと思ってんだよ!」
 俺の言葉に驚いて、零次は目を見開く。
「……死のうとしてたのか?」
「ああ。何度も死のうとした。崖から飛び降りようとか、橋から飛び降りようとか、電車に轢かれようとか、首つろうとか色々考えた。でもその度にお前の死体がまだ見つかってないことを思い出して、死ぬ気になれなかったんだよ!」