「さあ海里、店を出よう」
 足をどかして、父さんは言う。
 父さんが言った言葉は、一見親が大切な子供に言うただの言葉だった。だがそれは俺からすれば、ゲームオーバーだという意味だった。

 ――ああ、また地獄が始まる。
 父さんに腕を引かれてコンビニを出た俺は、そんなことを想った。

 父さんは人気のない路地裏に着いたところで手を離して、俺の腹を殴った。
「うっ!?」
 肺が圧迫されて、唾液が口から出る。
 俺は腹を抱えてうずくまった。

 父さんは痛がっている俺を一瞥しながら、カップラーメンを地べたに置いて、ズボンのポケットから煙草とライターを取り出した。そして、ライターで火をつけて煙草を吸い、その息を俺の顔に向かって吐いた。

「ゴホッ、ゴホっ!」
 煙でむせて咳が出る。

「流石にこんなんじゃ悲鳴は上げないか。……じゃあ、これならどうだ?」

 父さんは煙草を口にくわえると、俺の胸倉を勢いよく掴んだ。
 もう片方の手でネクタイをほどかれ、ブレザーの奥に着ているYシャツのボタンを第二ボタンまで外されて、肌を露出させられる。
 俺は自分の肌を見て、自己嫌悪に襲われた。

 汚い。

 火傷の跡と青黒い痣と切り傷が、胸や背中の上の方や首の後ろなど、服や髪の毛で隠れるところばかりにできている。
 まるで身体中に斑点があるみたいだ。
「ハッ。汚いな」
 父さんは俺の肌を触って、楽しそうに笑った。
「だ、誰のせいだと思って……アッ、アッツウウウゥ!?」
 右肩の鎖骨に、煙草の火を勢いよく押し付けられる。
 あまりの痛みと熱さに反射で悲鳴が出て、涙目になった。
 そこは、火傷の跡や痣や切り傷が一つもないとこだった。
「ハッ! あっさり出たな」
 悲鳴を上げた俺を見て、父さんは声を上げて笑った。
 父さんは俺の皮膚を灰皿みたいに使って、煙草の火を消そうとした。
「痛いか? 熱いか?」
 薄い皮膚を、煙草の火で焼かれる。
「父さん、やめて!! 痛い! 熱いっ!!」
 鎖骨の皮がむけて、痛みと熱さがものすごい勢いで押し寄せてくる。
 まるで濁流にもまれているみたいだ。海や川で流されたこともないのに、そう思った。
「そうか、痛いか。じゃあ、もっと苦しめ」