「……身投げの代償だ。治療費は海で死にかけてた俺を助けてくれた夫婦に払ってもらった。父親のこととお前のこと全部話して、治療費は仕事して自分で払うから、医者の前で親のふりをしてくれないかって頼んだら、本当の息子みたいに接してくれるなら、喜んで親のふりをするし、治療費も払ってやるって言ってくれたから。その人達奥さんが体が弱いせいで子供ができなかったみたいでさ、俺のこと、まるで本当の息子みたいに可愛がってくれたんだ。すげぇ嬉しかったよ」
「じゃあ、雷っていうのはその人達がお前につけた名前なのか?」
「いや、それは自分を皮肉っていっただけ。だって俺、お前に嘘つきすぎじゃん? 雷って名乗れば、お前が気づくかと思ったんだよ。それなのにお前、俺が種明かしするまで全然気づかなかったな」
 lieと雷。英語の嘘とかけてたのか。
「だって、顔変わってるし」
 零次から目を逸らして、俺はぼやく。
「でもそれ、逆に言うと顔だけじゃん? 身長も声もいじってないから、気づくと思ったんだけどなー」
「うっせ。……本当はなんて名前なんだよ」
「御影幸成。幸せに成れるってかいてゆきなりだぜ? ……幸せとは程遠い環境にいた俺がこんな名前をつけられるなんて、本当にびっくりだよな。あの人達、本当に俺にはもったいないくらい良い親だよ」
 零次の新しい名前を、声に出して呟いてみる。
「幸……成……」
 確かに、良い名前だ。その名前を聞いただけで、いい夫婦だとわかるくらいには。
「ごめんな? ……この足をお前に見られたくなくて、ずっと会いにいこうとしなかっかったんだ。ごめん。こんなに来るのが遅くなって」
 そういうと、零次は九十度くらいの深いお辞儀をした。俺はそれを見て、慌てて声を上げた。
「やっ、やめろよ。謝んな。……そんなことがあったら、躊躇って当然だろ」
「本当にそう思ってんのか? 四年も待たせてんじゃねぇよって少しも思ってないのか?」
 零次が俺の両腕を握り締めて、鬼気迫る様子で言う。その様子はまるで、そう言われたいと訴えているかのようだった。
 いや、熱烈にそう訴えていた。
 四年も来なかった自分を裁いてくれと、零次は訴えていた。そんな零次を見てたら、俺は今までの寂しさが一気にこみあげてきた。
「思ってるよ! なんでもっと早く来てくれなかったんだってすげぇ思ってる!! 俺っ、寂しかった! ……地獄に連れ戻されたと想って、神様を恨んだ! 生きてる心地が、ずっとしてなかった!」
 こみあげてきた寂しさは、熱烈な叫びに変換された。