「へぇ……。それは鎖骨を炙られたことがあるからか?」

 耳を疑った。

 ――なんで。どうして。

 俺は顔を上げて、男を見た。金髪に、垂れ目。……やっぱり違う、別人だ。

「……何でお前が、それを知ってるんだよ」
 俺は男の服の袖を掴んで、問い詰めた。
「そんなの聞かなくても、わかってんじゃねぇの?」
 その言葉を聞いただけで、鳥肌が立った。
 目の前にいる男は零次とはとても似つかない顔をしていた。
 似ていなかったんだ、本当に。
 似ていなかったけれど、そのことを知っているのは零次しかいなかった。

 涙が出た。

「れっ、零次……? でも、なんで……?」
 胸が締め付けられて、掠れた悲鳴のような声が出た。
「……整形したんだよ。成人してすぐに。だからこの顔になった」
 確かに未成年じゃなければ、親の同意がなくても整形できるな。
「なっ、なんで……! 生きてたなら、何で今まで会いに来なかった!」
「……会う勇気がなかったんだよ。それに、死にかけてたからな。俺、目覚めたの去年の十二月なんだぜ? それまではずっと眠ってた。生と死の淵を彷徨ってたんだよ」
「……えっ」
「……ごめん、今の嘘。本当は四年前の十二月の初めくらいに目が覚めた」

「はっ、はぁっ??」
 思わず大声をあげる。
 四年前の十二月の初めだと? 
 じゃあ、身投げしてから一週間くらいで目を覚ましたのか?
「懐かしいなぁ……そのオーバーリアクション。何も変わってねぇな、海里」
 零次は俺を見て目尻を下げて笑った。
「……変わってないんじゃない。変われなかったんだよ、お前に時間を止められたせいで。お前は俺の時間を止めた。勝手に進ませて、勝手に止めたんだ」
 涙を拭いながら、俺はそう不満気にぼやいた。
「そうだな。……ごめんな、海里」
「ごめんじゃねぇよ……今まで何してたんだよ」
「……死のうとしてた。飛び降り自殺でも何でもして、死んでやろうと思ってた。死ぬつもりで身投げしたのに助かったのに腹が立って、本気で死のうとしてた。一生良くならない自分の人生に、本気で飽き飽きしてたんだ。でも死のうとするたびにお前を思い出して、死ぬ気になれなかった。どんなにこんな身体で再会しても仕方がないって言い聞かせても死ねなかった。だから整形して会いに来たんだよ」
「……こんな身体?」
 思わず首を傾げる。
 一体どういう意味だ?
 零次は何も言わず、ズボンの右足の方をまくった。
「えっ……」
 右足の膝から下が銀色の義足になっていた。
 予想外の出来事に驚いて、言葉に詰まる。
「……そこだけじゃねぇよ」
 零次は俺の手を掴むと、自分の右足の付け根のとこまで移動させた。
 ザラザラした、機械の感触。
 ……膝から下だけじゃない、右足全体が義足だ。
 なんてことだ。まさかこんな風になっているなんて……。
 義足の足は、見てるだけで痛々しかった。