俺はあの日以来、零次に会えていない。
あいつの遺体は闇金会社の奴らが専門家に頼んで一年という時間をかけて探しても見つからなかった。
そのせいで金を返してもらえなかった零次の父親は荒れに荒れて、闇金の仕事をやめてニートとして生活するようになった。
要はあの父親は息子が死亡している可能性が高いとわかってから、かなり堕落した生活を送るようになったんだ。
必ず見つけ出すと言っていた割に、一年でそいつは諦めた。
意外と諦めが早かった。俺と違って。
俺は零次が海で身投げをしてから四年がたった今でも、奴のことを探し続けている。奈緒と美和に何度もう諦めようって言われても、探し続けている。
四年も見つからなければ死んでる可能性がかなり高いとわかっているのに、ずっと探し続けている。そんなことをしても意味がないというのに。
「……そんなに零次君が大事?」
俺の頭を撫でて、奈緒は首を傾げる。
「……アイツがいなきゃ、生きてる意味がないんだよ」
本気でそう思っている。
アイツが隣にいてくれることが俺の生きる意味で。
アイツと一緒に過ごした日々が、くそったれだった俺の人生があった意味で。
アイツがいなきゃ、俺の人生には何もない。だって俺は死ぬハズだった。
本当ならこんなに生かされたりしないで、とっくに殺されるハズだったんだ。
零次はそんな俺を、生かしてくれた。
理不尽な世界に反抗する気もなくして、自分の人生が崩れていく様をただ眺めていた俺を、必死で助けてくれた。
――自分も地獄みたいな世界にいたハズなのに。本当は俺を助けたいなんて思ってはいけない環境にいたのに、俺を助けてくれた。
神様みたいに、俺のことを救ってくれた。
地獄だった世界を、本当に天国に変えてくれた。
そんな風にしてくれた零次といることが、いつの間にか俺の生きる意味になった。
……アイツがいなきゃ笑えない。
アイツがいなきゃ、好きな食べ物を食べてもおいしいと思えない。
アイツがいなきゃ、何か嬉しいことがあっても気分が上がらない。
アイツがいなきゃ、生きているのを楽しいと思えない。
たかが一か月半。されど一か月半なんだ。
あいつは俺の人生を一か月間半でもの凄い違うものにして、俺の価値観を百八十度くらい変えて、ものすごい勝手に消えた。
そんなことをされて忘れることができたら、それこそ奇跡というヤツなんだ。
「……ちょっと、星でも見てくる」
「そのまま帰んないでよー?」
俺は奈緒の言葉に何も答えず、席を立った。
「うっ……寒」
飲み屋を出ると、冷たい風が肌に当たって、俺は思わずぶるぶると身体を震わせた。
「瀬戸じゃん! 久しぶり! 元気だったか?」
飲み屋の隣にあるコンビニの前にいくと、入り口の前で煙草を吸っていた男が、俺に声をかけてきた。
男は金髪で、少し垂れた優しそうな瞳をしていた。
「悪い。……誰だっけ?」
誰か分からなくて、俺は思わず首を傾げた。
「御影雷だよ! 高校の時、お前の隣のクラスだった。改めてよろしく! 井島も煙草吸うか?」
煙草の箱とライターを取り出して、御影は言う。
「……いや、俺はいい。……俺、火見るの嫌いだし」
首を振って、俺は顔を伏せた。