「それじゃあ、成人を祝しまして、カンパーイ!」
 奈緒が笑って、美和のグラスに自分のグラスを近づける。
「かんぱーい」
 美和はそういって、奈緒のグラスに自分のグラスを近づけた。
 二人ともテンションが高すぎる。
「……」
 帰りたい。
 俺はテーブルを挟んで向かいにいる奈緒と美和を見ながら、そんなことを想った。
 

 一月八日、夜。

 成人式を終えた俺は、奈緒と美和と一緒に、居酒屋に飲みにきていた。
「海里君、ちゃんと食べてる? 細いんだからガツガツ食べなよ?」
 成人したくせにジンジャーエールを飲んでいる俺の顔を覗きこんで、奈緒は笑う。
 成人した奈緒は、相変わらず茶髪で身長が低くて、整った顔をしていた。
「……食べてるよ」
 俺は奈緒から目を逸らして、食事が取り分けられている自分の皿に目をやった。
 滑稽なくらい量が減っていない。
「嘘! ご飯全然減ってないじゃん! お酒も飲んでないし! 海里君、私が朝連絡しなかったら、今日来ない気だったでしょ! だから乗り気じゃないんじゃない?」
 手に持っているビールをごくっと飲み干して、不満げに奈緒は言う。
 見てて気持ちいいくらい飲みっぷりがいい。俺とは正反対だ。

「……そうだな」
 俺は奈緒の言葉に適当に返事をした。
 食欲どころか、俺には物欲も性欲もない。
 あるのはもの凄い喪失感だけだ。四年前からずっと。
 もう零次がいなくなってから、四年が過ぎてしまった。

「はぁー」
「あのさーテンションただ下がりするからため息つくのやめてくんない? まぁ海里はあいつがいないせいで、常時テンションが低いんだろうけど」
 奈緒の隣にいる美和が、呆れたようにいう。
 返す言葉も思いつかず、俺は机に顔を突っ伏した。
「美和、それ禁句。海里君、さらにテンション下がってるよ」
「ごめん。そんなに気を落とさないで、元気だしなさいよ。海里はよくやったじゃない」
「……そんなことない」
 だって俺は、零次を見つけられてないんだから。