――俺は全部知らなかった。
こいつが何を想って父親に反抗して俺を助けてくれたのかとか、こいつがどれだけ複雑な環境にいたのかとか、そういうのを全く知らなかった。そういうのを全部知らないで仲良くしていた。その事実がもの凄い心を締め付けてきて、涙が流れた。
「……そんな泣くほどのことじゃないだろ」
「泣くほどのことだよ! 俺、辛い。……そばにいたのにずっとお前の辛さに気づいてやれなかったんだと思うと、辛くて、悔しくてたまらない」
本当に悔しい。こいつのSOSにずっと気づいてやれなかったのかと思うと、辛くてたまらない。
「……海里」
俺の涙を拭って、零次は目尻を下げて、悲しそうに笑った。
「……ありがとう、零次。本当にありがとう。助けてくれて」
俺が泣きながらそう言うと、零次はぎゅっと拳を握り締めた。
「……俺は助けたくなかった。助けちゃダメだったんだ。……助けなければ、こんなことにならずに済んだんだんだよ! ……本当は俺、お前と普通の友達になりたかった! 親父の命令でお前に近づくんじゃなくて! ただの同級生として遊びたかった!」
零次が口にしたその言葉は、叶うハズもない願望だった。
きっと零次が闇金の子供として生まれて、俺があのクソみたいな父親の子供として生まれた時点で俺らの出会い方は決まっていた。――ただの偶然じゃなくて、どちらかの親の作為で出会うことになると。
俺達が偶然出会うなんてはっきりいって奇跡に等しい。とてもありえないことだった。
「……俺もだよ。俺も、零次とただの友達になりたかった」
それでも俺は、零次の言葉に同意した。
裏があるかもと思いながら、零次の手を取ったあの日の自分のことを思い出して。
「うっ。俺、本当はお前と離れんの嫌だった! すげぇ嫌で、他に方法はないのかってめっちゃ思った。脅されてたのに! 地獄に戻るハメになるわかってたのに、お前とずっと一緒にいたいっと思ってた ……俺、お前とずっと一緒にいたい!」
俺の服を握り締めて、零次は叫んだ。
「うん。俺もずっと一緒にいたい! お前が死んだら、生きていけない!!」
俺は左手を零次の腰にやって叫んだ。
――神様は残酷だ。
神様はきっと、俺達の結末にハッピーエンドを残していない。