子供の話を聞きながら、あちこちと歩いた。

すっかり日は沈み、通りは店じまいを済ませてしまっている。

近くの人に尋ねようにも、尋ねる人まで見当たらなくなってしまった。

歩いてゆく先に、遠く一軒まだ灯りの灯る店が見えた。

人の出入りが激しい。

ふいに子供の手が離れたかと思うと、そこへ向かって駆けだす。

「千丸!」

母親と思われる女性が飛び出してきた。

子供を抱き上げ、強く抱きしめる。

奥から父と思われる店の主人も顔を出した。

私の姿を認めると、駆け寄って頭を深く下げる。

「ありがとうございました。昼過ぎから行方知れずとなり、懸命に探しておりました。なんとお礼を申し上げてよろしいか……」

店の者までが勢揃いし、並んで頭を下げる。

「いえ、よいのです。無事にお会い出来てよかった。それではお達者で」

重く垂れ込めていた空からの霧が、雨に変わった。

冷たい雨はぽつりぽつりと肩を濡らす。

「お待ちください。ご自宅まで、お見送りいたしましょう」

店の主人は傘を広げた。

断るのを、どうしてもと譲らない。

「では、お言葉に甘えさせていただきます」

差し向けられた傘に焚きしめた香が、ほんのりと香る。

主人の指示で、通りに面した店はきれいに閉じられた。

「さぁ、お待たせしました。参りましょう」

差し向ける傘の半歩後ろを、店の主人が歩く。

「それではあなたが濡れてしまいます。どうか傘をもう一本……」

「いいえ。息子の恩人に傘を持たせるわけには参りません。余り遅くなっては、町境の木戸門が閉じてしまいます。急ぎましょう」

通りから人の気配はすっかり消えていた。

確かに急がねば、送ってくれるこの人まで帰れなくなる。

すっかり暗くなった通りに、ふと人影を感じて顔を上げた。

薄暗い通りを、見覚えのある影が近づいてくる。

その人は私たちの前に立ち塞がった。

「ここで何をしている」

「今から戻るところでした」

じっと表情もなく見下ろすその人の様子が、私のよく知る人とはまるで違う。