初冬らしい薄曇りの空を進む。

境内の裏にある墓地へ来た。

遠くに見覚えのある姿を見かけ、顔を上げる。

吉岡さまだ。

すぐに行ってしまわれたのでご挨拶はできなかったけれど、あの方の目的はお話しをせずとも分かる。

珠代さまの墓前には、供えられたばかりの花と線香が漂っていた。

用意した金平糖のいくつかをそこに加える。

手を合わせた。

珠代さま。

こうしてじっくりとお話するのは、初めてにございますね。

志乃です。

今回はどうしても折り入ってご相談したいことがあり、こうしてやって参りました。

あの方はまだ、あなたのことを好いておりますが、私もあの方のことを好いております。

ですが私には、あの方のお心がよく分からないのです。

何を考えているのか、どうしてほしいのか、どうすればよいのか、私には何も分からないのです。

あの人の喜ぶことが、あの人を困らせることが、何も分からない私にはどうしようもなくて、本当に困っているのです。

どうすればよいのでしょうか。

それをぜひあなたに教えていただきたかったのです。

あの方の扱い方を、あの方との接し方を……。

もしあなたが生きておいでだったら……。

それを思うと、そのことがとても残念でありません。

直接会ってお話したいこと、ご相談したいことが沢山あります。

どうかあなたのご家族と、あの方の幸せと、ついでにもしよかったら私の幸せも、一緒にお守りください。

よろしくお願いします。

庭の桔梗も、無事に種をつけました。

また困った時には、ここに相談に来ますね。

それではまた……。

閉じていた目を開き、立ち上がる。

置かれた墓石は動かない。

もし、この人よりも先に出会っていたら……なんていう仮定は、ありえない。

晋太郎さんと珠代さまとの仲が広く噂になっていなければ、私のところへ来るような縁組みではなかった。

「どうか誰にも負けぬお力を、分け与えくださいませ」

珠代さまが他家へ嫁いだのは、誰かのせいなんかじゃない。

あの方が誰を好きでいるのも、私が誰を好きになるのも、誰もなにも悪くはないのだ。

だからこそ、何も恨むことのない自分でいたい。

上手くいくことも上手くいかぬことも、誰かのせいにも他の何かのせいにもしたくはない。

今ここに自分がいるのも、今ここにこうして自分があるのも、全て自分のあるようにいるのだと、信じていたい。

寺を後にする。

覚悟は決まった。

これから帰って喧嘩の続きだ。

いつまでも黙っているわけにはいかない。

どこにいても自分は自分であるように。

あの人をちゃんと、好きでいられるように。