お義父さまとの勝負が始まった。

晋太郎さんよりは上手いけど……。

パチリと置いた決め所のキリの石に、お義父さまは動揺を始めた。

「ちょ、ちょっとお待ちなさい」

長い長い待ちに入る。

晋太郎さんの横顔を見上げた。

この人も試合の間は真剣な顔をして碁盤をにらんでいたのに、私の視線に気づくとぱっと顔を上げた。

にこりと一つ微笑んで、すぐに視線を戻す。

なんだか頭がぼんやりとしてきた。

晋太郎さんを、最近はこんなに近くで見ていなかったからかもしれない。

会話はないけど、なんだかちょっと寂しいような、そんな変な気分になる。

「お疲れなら、休んできてもいいですよ。続きは明日にでもいたしましょう」

晋太郎さんの声に、ハッとする。

少しうとうとしてしまっていたのかもしれない。

「では……。お言葉に甘えて、失礼します」

立ち上がろうとして、床に手をついた。

その手がぐらりと傾く。

「志乃!」

目が回る。

バタリと床に倒れた。

体はだるくて重くて動かせない。

晋太郎さんの腕が私を抱き起こした。

「志乃、しっかりいたせ。どうした!」

体が熱い。

意識が遠のく。

やがて視界は真っ暗になった。

体だけが、ふわりと持ち上がる。

晋太郎さんが何かを叫んでいる。

周囲はバタバタと慌ただしい。

やがて私は、布団の上に寝かされた。

往診に呼ばれた医者が脈をとる。

額に手を置き、首筋に触れた。

「熱が高い。解熱の薬を処方しておきましょう。それを飲んで三日経っても下がらぬようなら、またお声かけください」

ようやく目が開いた。

晋太郎さんと義母がのぞき込む。

助け起こされ、苦くてたまらない薬湯を口に含んだ。

濡れた手ぬぐいがひんやりと気持ちいい。

「いつからお加減が悪かったのです」

全ての人を下がらせ、二人きりになったところで、その人はようやく口を開いた。

ここは私の部屋だ。

衣桁には雑巾やはたきなんかがかけてあって、散らかしたままの裁縫箱に、小袖やら何やらが寄せ集めただけでまとめて置いてある。

行燈の脇には小さな文台があって、こぼした墨の染みが目立つ。