「晋太郎さん、遅いな……。まだ……なのかな……」

いつの間にか眠っていて、気づけば朝になっていた。

衝立の向こうで横になっている晋太郎さんを見つける。

そっと部屋を出ると、土間へ向かった。

昨夜は言われた通り待っていたけど、会えなかったものは仕方がない。

いつものように朝餉の支度をすませると、その人を起こしに行く。

「食事の用意が出来ましたよ」

寝ているから返事がないのも、いつものことだから仕方がない。

晋太郎さんは後から遅れてやって来た。

食事をすませ片付けると、私は部屋へ戻り一息つく。

繕い物もたまっているが、お義母さまとのお付き合いで通っている句会のお題もまだ考えていない。

どちらを優先しようか考えて、和歌を考えることにした。

ごそごそと紙と硯を取り出すと、墨をする。

そういえば、そろそろ味噌がなくなるな。

お義母さまに相談しておかないと。

いつもどこの問屋で買っているのかしら。

今朝はいつもの、棒手振りのおじさんは来なかったな。

腰を痛めているとか言っていたけど、大丈夫なのかな。

鯖の味噌煮を買うなら、そこのが一番美味しいのに……。

和歌のお題は白露。

なんて優雅なお題なんだろう。

苦手な趣味に苦笑いしかでない。

私がこんなことで頭を悩ませる日が来るだなんて、思ってもいなかった。

秋のお題だなぁ……。

秋といえば、そろそろ栗とお芋の季節だ。

あぁ、その前に梨があった。

梨は大好き。

あのツンとした酸っぱさの後に、ほんわりくる甘みとシャキシャキの歯ごたえ、汁気はたっぷりあるほうが……。

「よろしいか」

襖が開いた。

晋太郎さんが顔だけをのぞかせている。

「何をしているのです?」

筆と紙を前に、止まっていた私を見下ろした。

「あっ……、いえ。何でもございません」

真っ白なままのを見られたくなくて、慌ててそれを隠した。

片付けてから向き直っても、その人は廊下から部屋の中に入って来ようとはしない。

「どうかされましたか?」

「……。いえ、奥の部屋に来ませんか」

今日の予定を考える。

和歌のことはいいとして、味噌の相談をしないといけないし、場合によっては買い物に行かないといけないかもしれない。

初物の梨を探しに行きたいな……。