「正直な、私の気持ちです。それでも、お盆に実家に帰りたいとおっしゃらなかったことには、少しうれしく思っているのですよ」

「……私自身の、勝手な都合だけです」

「どんな都合があるのです?」

衝立の向こうで晋太郎さんは振り返った。

暗い部屋で互いの顔は見えないが、向き合っていることは分かる。

今度は私が背を向けた。

「用事はないし、支度が面倒なだけです。帰っても……小言しか言われないような気がして……」

その人は笑った。

「あなたの気持ちが聞けてよかった」

その言葉に、私は衝立の下に腕を伸ばす。

「手を、つないでください」

手のひらを上に向け、差し出した。

じっと待っていると、そこに大きな手が重なる。

それは自分の触れた手の形を確かめるように甲に触れ、手の平をなぞる。

指先を絡めるとそっと握りしめた。

私は目を閉じる。

触れられる自分の手がとても小さく思えて、されるがままに任せている。

絡んだ指はもう一度私を握りしめた。

そっと握り返す。

「志乃さん」

「はい」

「お休みなさい」

その声に、同じ声で返した。

私は本当に、この人と同じ気持ちで同じように笑えているのかしら。

ふとそんなことが不安になって、手から伝わる熱に目を閉じる。

「ちょっと失礼するわよ」

襖が開いた。

突然現れた義母に、パッと手を離す。

部屋を見たお義母さまの表情は一変した。

「この衝立はなんですか! まさかずっと、こんな様子だったのではないでしょうね! 志乃さん、あなた……!」

「母上!」

晋太郎さんが飛び起きた。

「寝所に突然押しかけるとは、何事ですか。無粋にもほどがあります!」

「おかしいと思ったのです。志乃さんが懐妊したかもしれないというのに、晋太郎の落ち着き払っていたのが。もしや今までずっと……」

「夫婦には、夫婦の問題というのがあるのです」

「まぁ! あなたの口からそんな言葉を聞こうとは。どういうことなのか説明しなさい!」

「何をどう説明しろと言うのですか」

二人の間で私は震えていた。

晋太郎さんの手が肩に乗る。

それを見た義母の勢いは、少し落ち着いた。

「……。ちゃんと、してはいるんでしょうね」

「当たり前ではないですか」

義母はキッと私をにらむと、衝立に手をかける。

「志乃さん。この衝立はいつから置いてあるのですか」

「は、初めからです」

「初めから?」

「婚儀の日の翌日から、ずっと……」

「二人とも、そこに座りなさい」

義母はそう言い放つと、その場に座り込んだ。

「早くお座りなさい!」

「母上。いくら母上といえども、余計な口出しはしないでいただきたい」

「余計なことですって? あなたにとっては、これは余計なことなのですか?」

男児を産み、その家を継ぐことは大切な勤め。

晋太郎さんはぐっと言葉を飲み込む。