「あら志乃さん、もう動いて大丈夫なの?」

「えぇすっかり」

そう言ったのに、お義母さまは不機嫌そうに顔をしかめた。

「なによ、無理なんて、することないのよ。気分が悪いのなら、素直に横になっていればいいのに」

「いえ、おかげさまで、すっかりよくなりました」

「あらそう?」

明らかに義母の機嫌は悪くなる。

そわそわと落ち着かないその仕草に、私は少し混乱する。

「それはよかったですこと!」

落ち着かない義母の様子にしばらく気を使っていたのが、やがて勝手に機嫌を直してくれたことにほっとする。

食事のために全員がそろったころには、すっかり元に戻っていた。

「志乃さんは、ただの食あたりだったそうですよ」

食欲旺盛な義母の隣で、お義父さまは「それはなにより」とだけ答えた。

お祖母さまは、何も言わず食事を続けている。

何か悪いことでもしたような気分になって、私は隣の晋太郎さんを見上げた。

「大事なくて、なによりでした」

さっきまでの、寝ぼけた気配はみじんも見せず、涼しげな顔をこちらに向ける。

「それで、本当にご実家に戻られますか?」

「いえ、特に用事もないので。このままここにいようと思っているのですが……」

「そうですか。ならば結構です」

その人はもくもくと朝餉を口に運ぶ。

体調はよくなったとはいえ、食欲はまだ元には戻らない。

この人は……引き留めてはくれないんだな。

冷や奴だけをスルリと喉に通して、食事を終えた。

「本当に、もう体調はよくなったの?」

片付けをしている最中に、再び義母に聞かれた。

「えぇ。ありがとうございます」

「今朝もあまり食べていなかったじゃない」

「うーん。でもまぁ、大丈夫だと思います」

「そう? 本当にそうなの?」

そうやってしばらくあれこれと構っておいてから、義母はようやくふぅとため息をついた。

「ま、こればっかりは、どうしようもないものね。まだ本調子じゃないのなら、今日も一日休んでいなさい」

そんな突然に暇を出され家に閉じ込められても、本当にすることが見当たらない。

家の軒先と白い土壁の隙間に見える、わずかな空を見上げる。

じっとりと蒸し暑さは増して、茹だるような熱さだ。

桔梗のそよぐ庭が浮かぶ。

廊下で物音が聞こえた。

「晋太郎さん?」

手に桶と柄杓を持っている。

そこには桔梗が差してあった。

「墓参りですか?」

今はお盆の時期だ。

自然とそんな言葉が口をつく。

「えぇ……、まぁ、そんなもんです」

「私も行ってよいですか?」

「……。ま、まぁ……、墓参りですので……」

お供は断って、二人で外へ出る。

久しぶりの外出に、私はうきうきしていた。

「どちらのお墓へまいりますか?」

少し意地悪な質問をしてみる。

「墓はこちらです」

珠代さまの墓参りに行くのか、それとも坂本家の先祖の墓かと聞いたつもりだったのにな。