「お加減はいかがですか」

いつもよりずっと早い時間に、晋太郎さんはやってきた。

自分で押し入れを開けている。

「あ、お布団を敷きますか?」

「あなたは横になっていなさい」

いつもより、布団の位置がずれる。

中央に敷かれてしまった私の布団のせいで、晋太郎さんのは部屋の隅に追いやられてしまった。

「動かしますか?」

起き上がろうと思うけど、体が重い。

背中を向けているこの人からは、返事がない。

「あなたが嫌じゃないのなら、私はこのままでよいです」

いつものように間に衝立を立てるとしたら、本当に晋太郎さんの布団は、廊下の襖と接することになってしまう。

だけど、そんな心配もよそに、この人は衝立を立てぬままさっさとそこに寝転がってしまった。

「そういえば初めてですね。あなたのお顔を見ながら、眠るのは」

枕にのったお顔がこちらを向いた。

そうでなくても気分が悪いのに、あんまり見ないでほしい。

「恥ずかしいので、やめてください……」

体に掛ける布団代わり夜着がないから、隠れるところがない。

衝立もない。

目を開ければ見えるこの人に、ドキドキしている。

背を向けてしまうのもわるいような気がして、見えなくなるようぎゅっと目を閉じた。

「寝苦しいのなら、襖を開けておきますか?」

「虫の入る方が嫌です」

そう言うと、晋太郎さんは笑った。

「では、このままにしておきましょう。気分が悪くなったら、いつでも起こしてください」

その人は他にもなんだかんだと世話を焼いてから、ようやくごそごそと動いて背を向けた。

少しほっとする。

そういえばこうやって、落ち着いてこの人の寝姿を眺めるのも初めてのような気がする。

形のよい後頭部から耳たぶ、すっと伸びた首筋のふもとに、大きな肩が広がる。

ため息が漏れた。

まだ少し胸焼けがする。

寝返りを打って、私も目を閉じた。

翌朝目を覚ますと、その人はまだ眠っていた。

襖を開けて、外の空気と入れ替える。

昇ったばかりの朝日がさっと差し込んだ。

ごそごそと衣ずれが聞こえる。

「あ、まぶしかったです?」

「いえ……。もう、お加減はよろしいのですか?」

まだ目の覚めきらぬかすれた声でそう言って、ごろりと背を向けた。

幼い子供のようなその仕草に、つい微笑む。

「えぇ、すっかりよくなりました」

またすぐに寝息が聞こえてきた。

のぞき込んでみたら、本当に眠っているようだ。

腕を組んだまま動かないその姿に、もう一度微笑む。

土間へと向かった。