私は勢いよく立ち上がると、今度は晋太郎さんの前をどしどし歩いた。

この人はぶつぶつと何かをつぶやきながら、後をついてくる。

「全く。何をそんなに不機嫌にされているのですか? なにか気に障るようなことでも、私はいたしましたか」

「えぇ、色々と」

「朝起きて、着替えただけですよ? それのどこに腹を立てる要素があったというのです」

なにを言われようと、この人自身がその理由に気づかない限り、全部無視だ。

「おはようございます。遅くなって、申し訳ございませんでした」

障子を開けたら、先に来ていたお義父さまやお祖母さまたちは、さっさと食事を始めていた。

「まぁ、朝から賑やかなこと」

義母はそう言って、すました顔でご飯をよそう。

「ほら、さっさとお食べなさい」

義母は茶碗を私に手渡した。

次は晋太郎さんの番。

このままでは、お義母さまにご飯をよそわれてしまう。

私は手のひらを上に向けて、その人に差し出した。

「はい。さっさと渡してください」

「自分でやりますよ」

「早く」

腰を下ろした晋太郎さんは、ムッとしたまま空の茶碗をそこにのせた。

「いつもいつも、どうもありがとうございます」

「えぇ、どういたしまして」

指と指の先が、わずかに触れた。

いつもの三倍近く盛り盛りに盛ったご飯を渡す。

「いただきます!」

私は勢いよく箸をつかむと、朝餉を一気にかき込む。

百も数え終わらぬうちに、全て食べ終えた。

「ごちそうさまでした!」

「米粒がついております」

「どこに?」

晋太郎さんが自分で自分の顎を指で差すのを、マネして同じようにやってみても、それに米粒の触れる様子はない。

「ここです」

手が伸びてくるのを、思わずよけそうになるのを、「そうじゃない」って我慢する。

晋太郎さんの指が口元に触れるのを、そのまま許した。

「か、片付けて参ります!」

一目散に土間へと逃げ込む。

恥ずかしい。

お義父さまやお義母さまの前で、一体何をやっているのだろう。

瓶から水を汲み、洗い桶に流した。

そこに並ぶ皿や鍋を一心不乱に洗っては片付ける。

床も掃いてピカピカになったところで一息ついた。

なんか違う。

そうだよね。

私がしたいのは、こんなことじゃなかった。

もっとちゃんとしっかりきちんと、あの人の妻になりたいのだ。

顔を上げる。

今日はまだ始まったばかりだ。

「よし!」

顔を叩き、気合いを入れた。

お料理や裁縫が出来ないのなら、家じゅう土間みたいに掃除する? 

だけどつい数日前に、張り切りすぎてお義父さまの大切な花器を落として割ったばかりだし……。

そうだ。花だ。

土間から出て庭へ回る。

垣根の通用門を抜けると、その向こうには桔梗の咲き乱れる庭が広がっていた。

庭の手入れなんて、したことはない。

前に芽を摘んで怒られた。

だったら今度は、世話をすればよいではないか。

私だってこの花を大切に思っているのだということを、あの人に分かってもらいたい。