嫁いで初めての朝だというのに、完全に寝坊してしまった。

起き上がろうとして、自分の着る物がないことに気づく。

昨日の酒のせいか、頭はぼんやりとして、体は重くだるい。

脱ぎ散らかしていた花嫁衣装を、見栄え程度に畳み衝立で隠すと、こっそり廊下をのぞいた。

足音を忍ばせ、そろそろと進む。

味噌汁の香りと話し声が聞こえて、障子越しにそっと聞き耳を立てた。

「で、コトは首尾よく済ませたのですか?」

「朝からなんの話です」

「志乃さんはまだ起きてこないの?」

「母上、少しくらい寝かせてやってもよいではないですか」

「ちゃんとやることを、やっていればよいのです」

「分かっていますよ」

お義母さまと晋太郎さんの争う声だ。

お義母さまは大きなため息をついた。

「だいたい、昨日のアレはなんですか。あんなことではこの先、あの方とやって行くのに……」

「私には関係ありませんよ」

「あなたも同意したではないですか」

「知りませんよ。渋々だったのはご存じのはず。もはや私は、後悔すらしております」

「なんですって? 今更そのようなことを……」

「条件は先にお示ししたはずです。母上におかれましては、それは十分にご承知おきの上でのことと理解しておりますが」

「晋太郎!」

義母は声を荒げた。

これ以上話が長引くのを、盗み聞きしているのも申し訳ない。

いや、それよりもなにも、早く着替えたい……。

「あ、あの……」

障子越しに話しかける。

「お、おはようございます」

言い争う二人の声は、ピタリとおさまった。

「志乃さん? どうしたの、早くいらっしゃい」

少し怒ったような義母の声に、さらに縮こまる。

「いえ、あの……。着替えがどこにあるのか、分からなくて……」

急に開こうとする障子を、慌てて押さえつけた。

きっと晋太郎さんだ。

こじ開けようとしているのに、全力で抵抗する。

こんな肌着姿のところを、見られるわけにはいかない。

昨夜いきなり寝所に連れ込まれたせいで、先に送った嫁入り道具の置き場を知らされていない。

「……そ、そのようにつかんでいては、開けられないではないですか……」

「あ、開けないで……見ないでください……」

ぎりぎりと押し迫る危機に、全力で抵抗する。

それを抑える自分の腕は、ぷるぷると震えていた。

私も本気だが、向こうも本気だ。

「……い、一旦、部屋に戻りなさい……」

「は、はいっ!」

手を離し、廊下を駆け戻る。

頭まで布団にくるまって、とにかく姿を見られないようにした。