翌日、自分の用事を済ませ部屋に戻ると、見覚えのある包みが文台に置かれていた。

開けてみると、昨日と同じ枇杷が山のように包まれている。

晋太郎さんだ。

私はお茶を用意すると、それを手に奥の部屋へと向かった。

「晋太郎さん。この枇杷なんですけど、ご一緒に……」

板戸を開く。

緑の海に青紫の無数の花が浮かんでいた。

桔梗だ。

ツンと香が香る。

明るい日のさす縁側に、その人は座っていた。

華奢な香炉に焚かれたお香と、見たことのない湯飲みと透き通る水ようかんが並ぶ。

「珠代さん。今年も桔梗が咲きましたよ」

静かに微笑んだその横顔は、今もすぐ隣にいる女性に向かって捧げられる。

まっすぐに背を伸ばし、曇りのない澄んだ目が庭を見渡す。

「あなたのお好きな花が、今年もたくさん咲きました」

「桔梗は、珠代さまからいただいたお花だったのですね」

隣に腰を下ろすと、この人は困ったような顔をする。

「志乃さんは、なぜ泣いているのですか?」

「目に何か入っただけです」

自分の鼻水をすするのと、晋太郎さんのお茶をすする音が混じる。

どこからか飛んできた羽虫が、ぶーんと鳴いた。

「珠代さまは、どのようなお方だったのですか」

「あなたにお話ししても、仕方ないでしょう。その枇杷はあなたに差し上げたものですから、早く目を洗って、自分のお部屋で召し上がりなさい」

そんなことを言われても、私はすぐに立ち上がれない。

なかなか動こうとしない私に、この人は諦めたようにまたお茶を口にした。

「いつか私にも、珠代さまのお話をお聞かせください」

それに返事はなかったけれど、私にはそれが答えのような気がした。

あふれる涙が止まらない。

見かねたその人は、奥の箪笥から手ぬぐいを出して渡してくれる。

「これは?」

「手ぬぐいです」

私の聞きたいのは、そんなことじゃないのに……。

その小さな手ぬぐいは子供のもので、少し古びているようだった。

晋太郎さんは珠代さまのための水ようかんを飲み込む。

「私だって、水ようかん好きです」

笑ってそう言った私に、この人はまたため息をついた。

「そうですか。では今度は水ようかんにしましょう」

私は小さく微笑んで、その部屋を後にする。

部屋にお義母さまの寝転んでいるのを見つけて、私は駆け寄った。

「珠代さまと晋太郎さんは、とても仲がよろしかったのでしょう?」

「えぇ?」

お義母さまはうとうととしていたのを、渋々起き上がった。