いつものように、遅くなってから晋太郎さんは入ってくる。

そのまま床につこうとするのを、私は振り返ってじっと見上げた。

「……。まだ、起きていたのですか」

その人も振り返る。

「お話があります」

私は衝立の向こうへ進んだ。

そのわずか半歩先で膝を折る。

晋太郎さんは布団の向こうの縁で腰を下ろした。

「なんでしょう」

「私は多分、晋太郎さんのことを好いております」

行燈の小さな光さえ届かぬような先にいる、その人へ向かって言う。

「……ありがとう。私もです」

その人はすぐに返事を返してきた。

そのことに私はまた、気持ちが落ち着かなくなる。

「それはどういう意味でしょうか」

ため息が聞こえた。

「人の心を、そのように計るものではございませんよ」

「ですが、はっきりとおっしゃってくださらないことには、分かりません」

「きっとあなたが今、私を好いているとおっしゃってくださったのと同じくらいには、好いておりますよ」

嘘だ。

そうは思ってはいるけど、その気持ちをうまく口に出来ない。

「志乃さんは、不思議な人ですね」

「……。そうかもしれません」

そうだ。

だからこうして動けずに、黙ったままここに座っている。

その人は布団の縁をつかむと、自分の方へと引き寄せた。

「さぁ、もうお休みなさい。私は疲れているので、先に失礼します」

その人は、もっと離れた布団にさっさと潜り込んでしまう。

私に背を向けた。

「はい。おやすみなさい」

晋太郎さんが私のことを好きじゃないのは、仕方がない。

だって、この人にしてみれば、突然現れた見ず知らずの人間と意に染まぬ結婚をさせられたんだもの。

私だってそれが不安で仕方なかったから、その気持ちはよく分かる。

枕の上にきっちりと結わえられた髷がのっていて、それは首筋まで真っ直ぐに伸びていた。

私がそれに触れる日は、いつかやってくるのだろうか。

祝言の日のことが頭をよぎる。

この人はまだ、珠代さんのことを忘れられないんだ。

他家に嫁いでそのままお産で亡くなられた珠代さまと、私を重ねているのかもしれない。

静かな寝息が聞こえてくる。

布団へ潜った。