「これは私からの、精一杯の真心のつもりです。今は……、あなたには理解できないかもしれませんが、いずれ分かっていただけるものかと」

なんだろう。

文を受け取る。

「どうぞ、ご覧ください」

上等の紙に記されたそれを、はらりと開く。

そこにあったのは離縁状だった。

「私のことを好きになろうとか、そういった努力は無用です。あなたもそんなことは、本心ではしたくはないでしょう?」

晋太郎さんを見上げた。

自分の手が震えている。

「私のことを、嫌いになられましたか?」

「いいえ、そういうことではありません」

「ではどうして?」

「好きでもなければ、嫌ってもいません。……そんなこと、あなたは考えたこともありませんでしたか?」

その人はかすかに微笑んでから、ため息をついた。

「よいのです。それが普通で……、当たり前なのですから。私はあなたと祝言を挙げましたが、それに縛られることはありません。気に入らなければ、いつでも好きな時に離縁してくださって構いません。あなたにそれを渡しておきます。返礼はいつでも結構、急ぎはしません」

「私に出て行けとおっしゃっているのですか?」

「いいえ違います。これ以上、あなたがなさる悲しい努力を見ているのが、私には辛いのです」

「悲しい努力?」

「好いてもいない見ず知らずの者のところへ、嫁がされたことです」

それは晋太郎さんにとっての、珠代さまのことを言っているのだろうか? 

私を珠代さまのようにはしたくないと?

「家の者と懇意にしていただいて、そして嫁にきていただいて、本当にとても感謝しています」

「悲しい努力とは、一体なんのことでしょう」

「……。あなたが、ご自分の口でおっしゃりたくないのであれば、それで構いません。その文は私の気持ちを、ただ形にしただけのこと」

「分かりません!」

なぜ離縁状を渡すことが、この人の真心になるのか。

そんなこと、分かるわけがない!