この人が、私の夫となる人か。

掴まれた手の強さと、大きな背中にくらくらする。

よかった。大丈夫だよ、うめ。

中庭を抜け、さらに奥へと進んだ。

晋太郎さんは、すぐ脇の部屋へと私を押し込む。

「失礼する!」

用意されてあった布団の上に押し倒された。

白無垢の裾が足に絡まり、思わす悲鳴をあげる。

「痛い!」

乱暴に投げ出されたせいで、角隠しの下のかんざしが頭皮に突き刺さった。

ムッとして頭を押さえると、その人はのぞきこむ。

「すまぬ、どこが痛む」

「ここ!」

本当に泣きそうだ。

お酒のせいで頭はくらくらするし、締め付ける帯のせいで気分も悪い。

おまけに掴まれた腕も痛いし、柱にぶつけた足も痛い。

「血が出てるかも……」

「許せ。見せてみろ」

晋太郎さんは私から帽子を取ると、乱暴に髪を掻き分けた。

「血など出ておらぬ、大丈夫だ。たいしたことはない」

そう言うこの人の顔は真っ赤で、手元もおぼつかない。

「もう乱暴にはいたさぬ。安心しろ」

そう言ったかと思ったとたん、頭が肩に乗った。

吐く息は恐ろしく酒臭い。

両手で腕を掴まれ、抱きすくめられたたかと思うと、ずるずると引きずられる。

「あっ、待って……」

私もずいぶんと飲まされたはずなのに、それでもこの人の息が酒臭いと分かる。

泥酔しているようだ。

「ん……。重い……」

のしかかる体を横にずらすと、ドシンと布団の上に倒れてしまった。

そのまま眠ってしまったようで、伏して動かぬこの人を、どうしていいのか分からない。

だけど……。

私はほっとして、胸に溜まっていた息を吐き出す。

真新しい分厚い布団が二つ、並べて敷いてあった。

透かし彫りの入った間仕切りが行燈の灯りに照らされて、ぼんやりと浮かび上がっている。

枕元には蓬莱の飾りが置かれているから、ちゃんと用意されていた寝所ということか。

寝息が聞こえる。

寝転がっているその人の頬をパシパシと叩いても、何の反応もない。

私は帯を解いた。

いま思うと、私自身もずいぶんと酔っ払っていたのだろう。

白打ち掛けを脱ぎ捨てると、晋太郎さんの乗っていた布団の片方を引っ張り、ずるずると引き離した。

その人をそのまま横へ転がしておいてから、布団の中へ潜り込む。

頭はくらくらしていて、自分も横になりたいということだけしか考えられなかった。

「はぁぁ、よかった!」

満足して目を閉じる。

そのままぐっすりと眠ってしまい、次に目を覚ました時には、すっかり朝日が昇っていた。